いや、今はアレックスの想い人が誰かなどと考えて、心惑っている場合ではない。
何よりも彼女を聖域に引き止める事、それが最優先。
その後の事は、それを終えてから考えれば良いのだ。


「兎に角、力を貸して貰うぞ、デスマスク。」
「ちっ、しゃあねぇな……。で、俺に何をやれってンだ?」


一番手っ取り早いのは、デスマスクにあの彫刻師の頭を黄泉比良坂に飛ばして貰う事なんだが。
流石に、それはマズいだろう。
数多の命を奪ってきた私達と言えど、私怨だけで人を殺めるなどあってはならない。
ましてや、アテナのご加護によって再び得た、この命だ。
今はもう過去の過ちを繰り返す訳にはいかない。


取り敢えず、私は先の経緯をデスマスクに話して聞かせた。
デスマスクは如何にも極悪そうにクックックと笑い、「ンなモン、俺のこの指先一つで、あっと言う間だろ。」と、思った通りの事を言い出す始末。
私はズキズキと痛む額を押さえ、この男の力を借りようとした自分が馬鹿だったと思った。


「何でそう安直な考えしか出来ないんだ、キミは?」
「ぁあ? 俺の力を借りてぇって事は、そういう意味じゃねぇのかよ?」


全く、呆れる単細胞だ。
前言撤回、この男に良い部分など一つもありはしない。
アレックスは何が良くて、こんな大馬鹿な男と付き合っていたのか……。
一瞬、私は彼女の趣味さえも疑い掛けた。


「殺しはなしだ。大体、その男を殺してカタが付くなら、キミに頼まなくても私がやっているさ。」
「おーおー、そうだったな。オマエのその薔薇の匂い、一般人が迂闊に嗅いじまったら、一瞬であの世行きだ。」
「で、貸してくれるのだろう?」
「ぁ? 何を?」
「だから、キミの力だ。」


肩を竦めたデスマスクの何ともやる気のない表情。
私は一度、ワザとらしく大きな溜息を吐いた後、その腕を取ってソファーから立ち上がらせた。


「キミにも彼女を引き止める義務がある。私の指示に従ってもらうぞ。」
「ったく、面倒臭ぇな、オイ……。」


そんな事を言って嫌そうな素振りを見せるも、デスマスクが断るつもりもない事を、私は知っていた。
何だかんだ言って、コイツもアレックスの事を放っては置けない。
ガリガリとまた銀の髪を掻き毟るデスマスクを眺め、また小さな溜息を吐いた後、私はこれから実行しようとしている事を手短に伝えた。





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