距離が遠い



「何、アイオリア?」
「いや……。お茶、ありがとう。美味かった。」
「日本茶を淹れてみたの。良かった、気に入ってもらえて。」


今日も言えなかったな……。
あの瞬間はチャンスだったのに。
アレックスがお茶を運んできた時、兄さんとサガは何やら話し込んでいたし、その他の黄金聖闘士は誰も居なかった。
彼女を誘うには、これ以上ない機会だったのに、どうして俺はこうも意気地がないのか……。


一人、トボトボと十二宮の階段を下りていく。
夕方、沈みゆく夕日を背に自宮へと帰っていく道は、何とも心寂しい。
以前はアレックスと二人、楽しく喋りながら、この階段を下りていたものだった。
だが、最近は彼女も忙しく、教皇宮で寝泊まりする日が多い。
殆ど住み込みのようなものだ。
それでも不平不満も言わず、笑顔で明るく仕事をしている姿を見ると、感心するだけでなく、見習わなければならないとも思う。


「アイオリアは恋人とか作らないの?」
「っ?!」
「あ、ゴメンね。聞いちゃいけない話題だったかな?」
「い、いや……。そうではない……。」


そうではなくて、君と、アレックスと付き合いたいのだ。
アレックスが好きなのだと、あの時、勢いでも何でも良いから言ってしまえれば良かったのだ。
だが、結局は口籠って、上手く言葉に出来ないままに、話の全てを誤魔化して。
アレックスには誤解されてしまった事だろう、俺には誰か想い人がいるのだと。


「それがアレックスの事だと、彼女が気付いてくれれば良いのだがな。」


そんな都合の良い事は起きないか。
自分から想いを告げずして、彼女が気付いてくれるなんて、夢のまた夢。
こんなに近くにいるのに、たった一言が言えない。
そのたった一言が、近い筈の距離を、遙か遠いものへと変えてしまっているのだ。
そうと知りながら、いや、そうと知っているからこそ、返って言えなくなってしまうのか。
「好きだ。」と、その三文字が。


「おはよう、アイオリア。」
「あぁ。おはよう、アレックス。」


「アイオリア。はい、書類。」
「ありがとう、アレックス。」


「お疲れさま、アイオリア。」
「あぁ……。」


伝えるチャンスはある、こんなにもある。
なのに、アレックスの笑顔を目の当たりにする度、目が眩んで、心も眩んで、そして、徐々に言葉が喉の奥に戻ってしまう。
どうして、こうなのだろう。
どうして、こうなるのだろう。


「アイオリア、手が止まっているわよ。」
「アレックス……。あの、だな……。」
「何? どうかした?」
「いや……。君は今日も元気だな、と……。」
「仕事が楽しいから、ね。」


悪戯っ子のように飛ばしたアレックスのウインクに、また目眩を覚える俺。
こうして、更に言葉を失っていくのだ。
十センチの距離が、十キロの距離に思える程に。



気が遠くなりそうな、距離



‐end‐





男らしくないリアで申し訳御座いません。
伝えたいけど言えなくて、言えなくて、言えなくて、ズルズルと言えない事を引き摺り続けるのがリアっぽいかなとのイメージです。
内気な訳でも、消極的な訳でもなく、自信がないのだろうかと思うんですよ。
これが不遇時代を過ごした影響ですかね。
兄さんとは顔は似ていても、中身は似ても似つかないw

2017.07.23

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