と一緒



珍しく兄貴に呼ばれて戻ってきた聖域。
ここ暫くは、海界の復興作業に忙しく余り聖域には顔を出してなかっただけに、久し振りの休暇も兼ねて双児宮でノンビリと数日を過ごそうと思っていたのだが……。


「良いか、カノン。朝御飯は猫缶を半分ずつだ。だが、夜御飯はドライフードを与える。分かったな、間違えるなよ。それから一日一回、昼前には必ず庭に出してやる事。目は絶対に放すな。柵を越えて外に出てしまうと危険が一杯だからな。あ、雨ならば出すなよ、濡れて風邪を引いたら大変だ。それと……。」
「…………。」


延々クドクドと続くサガの能書き。
何なんだ、これは?
久し振りに帰った俺に対し、顔を合わせた途端、何やら訳の分からぬ事を捲し立てて、そして、それが一向に止まらぬサガ。
お帰りの挨拶もなく(いや、元よりそんな言葉を掛けられた事はないが)、互いの近況や体調を気遣う報告の言葉もないままに、こんな一方的に話を振られている現実。


「……オヤツは欲しがっても与えてはならぬ。人間の食べ物は美味いが、猫の身体には良くない。与えるなら台所の棚に保管している猫専用のササミを一切れずつ……。」
「オイ。」
「何だ、カノン? 大事な説明の途中だというのに、水を差すとは何事だ?」
「何事だ、じゃないだろ。何事か聞きたいのは、寧ろ俺の方だ。」
「見れば分かるだろう。相変わらず察するという事の出来ん男なのだな、貴様は。」


オイ、コイツ殴っても良いか?
もしくは、ゴールデントライアングルで異次元に飛ばしても良いか?
昔から失礼なヤツだが、ココに来て失礼度が増してやがるとは。


まず、この状況。
何故、俺が呼ばれたのか?
俺に頼み事があるのか、何かして欲しいのか?
それよりも何よりも、お前が両腕にシッカリと抱いているソレ。
ソレは何だ、ソレは?


「猫だ。可愛いだろう。」
「飼ってるのか、ココで?」
「そうだ。猫は可愛いぞ、癒される。」


右腕に青銀短毛でスラリとスリムな猫を、左腕に白い長毛で青い瞳をした猫を抱いて、サガは俺と瓜二つな顔をふにゃりと崩す。
顔、顔!
威厳が失われてるぞ、口元が緩み過ぎだ、目尻が下がり過ぎだ!


「十二宮では猫を飼うのが流行になっているとは噂で聞いたが、まさかお前までとは……。毎日、しっかり自宮に帰っていると聞いて、耳を疑ったが、嘘ではなかったのか。」
「デスマスクに猫の良さを教えてもらってな。彼等と戯れる事は、息抜きとしてのリラックス効果にもなる。ちなみに、右の子が海衛門で、左の子が龍之介だ。」


貴様……、俺に喧嘩を売っているのか!
良くも満面の笑みで、そんな阿呆な名前を言えるものだな!
つか、何故に猫の名に『海』と『龍』を使う?!
そんなに俺を貶めて楽しいのか、お前は?!


「何故だ? 可愛い飼い猫の名に、弟に縁のある字を使っても、何ら不思議はないだろうに。」
「良く考えてみろ、サガ。貴様が飼い猫に向かって『海衛門〜♪』などと甘い声で呼べば、周りの奴等は気味悪く思うだろうが。」
「……そうか?」


あぁ、そうだ。
コイツは根本的に、そういった感覚に欠陥があるんだった。
一般常識もなければ、羞恥心すらないんだったな。
溜息が漏れる、呆れと、諦めと、困惑の入り混じった。


「アテナのお供で五日程、日本に行く事になった。その間、この子達の世話を頼むぞ、カノン。任せられるのはお前しかいない。」
「そんなに目を見開いて脅されても……。」


脅してなどいない、頭を下げているのだ!
少しも頭を下げずに、そう力説するサガの姿に、俺はもう一度、深い溜息を吐き、その腕から青銀色の猫を一匹、奪い取ったのだった。





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