そっと、ゆっくり、慎重に。
この手に渡された仔猫の温かな体温を感じながら、恐々と腕の中で抱き直す。
小さな猫は、俺の腕の中で少しだけ身を捩った後、何処となく嬉しそうに顔を胸に擦り寄せてきた。


「ミャーン。」
「む……。」
「ふふふ。どうやらラダマンティス様の事が、お気に召したみたいですよ。」


この猫、俺の大きな身体や、顰め面と言われる厳つい顔付きには、少しの恐怖も感じていないようだ。
暫く、顔を擦り付ける動作を繰り返した後は、腕の中から俺の顔を見上げ、小さく小首を傾げた状態で、ジーッと眺めてくる。
クリンとした大きな瞳、愛らしい鼻と口元、ふんわりと丸い顔。
邪気のない目をした猫を見つめていると、不思議と愛おしい気持ちが、ムクムクと湧き上がってくるではないか。
見れば見る程、その小さな頭を撫でたくて溜まらなくなってくるのは、何故だ?


「ね。言った通りでしょう? 帰宅後は、このコと目一杯、気が済むまで戯れて、しっかりと癒されてくださいね、ラダマンティス様。」
「ミャン。」


それが自分の仕事だとでも思っているのか、力強く一声鳴いて、俺の指先をペロペロと舐め出す仔猫。
擽ったい、が、その擽ったさが心地良い。
そうか、これが猫の魔力なのか。
あの生真面目そうな山羊座の男が、猫に傾倒したくなる気持ちも何となく分かる。


「……待て。そもそも、アレックスが猫を飼いたくて、ミーノスのところへ通っていたのだろう。それを俺ばかりが独占しては、お前が寂しいんじゃないのか?」
「それは問題ないです。私はラダマンティス様がお仕事している間に、このコとじゃれ合いますから。」


そう言って、まるで悪戯っ子のようにクシャッと笑ったアレックスの満面の笑顔に、思わず見惚れてしまう。
そうだな。
コイツと、この仔猫と、部屋に戻れば一緒に笑い合えるのだ。
そう思うだけで、疲れた心が癒される、そう感じた。


――数日後。


「ラダマンティス様! ラダマンティス様!」
「何だ、アレックス? 朝っぱらから煩いぞ。」
「あ、やっぱり! そのコを離してください!」
「む……。」


執務に出掛けようとする俺を慌てて引き留め、腕に抱いていた仔猫を無理矢理に引き離そうとするアレックス。
俺の腕の中でウトウトしていた仔猫は、少々乱暴な引っ張り合いに、ムニャムニャと迷惑そうな声を上げ、そして、また目を閉じた。


「駄目ですよ、執務に猫連れで行くなんて!」
「しかしだな。コイツが俺に擦り寄って、離れないのだ。」
「離れ難くなってるのは、ラダマンティス様の方でしょう? このコは貴方が居なくても全く平気なんですから。」
「む……。」


気が付けば、すっかり猫の毒牙に参ってしまった模様。
猫を巡っての俺とアレックスの攻防戦は、今後も暫く、続きそうな予感がした。



と暮らす日々
心はキミの虜



(コイツが居ないと、昼飯も味気ない。)
(だったら、お昼に一度、帰ってくれば良いでしょう?)
(む、そうか。)



‐end‐





猫と暮らすシリーズ第2弾、ラダ様編でした。
生真面目・苦労性のラダ様が、仔猫に癒されている姿を妄想したら、非常に萌えたので思わずw
このまま冥界三巨頭をコンプ出来ればと思っているのですが、最後のアイコが難関ですね;

2013.11.03



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