私の元カレは、
とんでもない美男子で、
とんでもなく自己中心的な人です。



不機嫌な元カレ



アレックスが彼と出会ったのは、大学に入って直ぐの事だった。
ギリシャからの留学生として、アレックスと同じ大学に通っていた彼は、キャンパス内は勿論の事、パリの街を歩いていても圧倒的に人目を惹いた。
そのくらい彼の美貌は輝いていたのだ。


だが一方で、ありとあらゆるスカウトが彼に声を掛けても、まるで興味がないのか、虫でも払うように全てを拒絶する。
キャンパス中の女の子が黄色い声を上げてざわめいても、まるで眼中になく、綺麗に着飾った容姿自慢の女子が告白しても、それをあっさりと断った。
まさか、自分の余りある美しさのせいで、女性に興味を持てないのではないか?
そう誰もが思った矢先、彼が唯一、興味を示し、有無を言わさず自分の傍に置いた女子がいた。
それがアレックスだった。


アレックスは常々、謎に思っていた。
見た目は普通、特に目立つ容貌でもない。
自分を美しく見せるメイク技術を持っている訳でもなく、お洒落に敏感な方でもない。
本当に極々普通の女の子。
それを、絶世の美女と見紛う程の端麗なマスクと、世の男子共が羨む見事な筋肉を備えたモデル体型を持った彼が選んだという事実。
最初は何の冗談なのかと思った程だ。


「ロディはどうして、私を選んだの?」
「決まっている。キミの、その何色にも染まっていない純真な心が、とても綺麗だと思ったからさ。」


柔らかな金髪を揺らし、目に眩しい微笑を浮かべる彼。
留学生という割に、フランス語は完璧だった。
大学での成績も、驚く程に優秀。
彼には何か裏があるのかもしれない。
アレックスが勘繰ったのも当然だった。


だが、怪しいと思って、彼の行動を細かに調べてみたところで、何一つ疑問に思えるものは出てこない。
一般人の大学生であるアレックスに調べられる事などタカが知れていたが、それでも、一日の内、殆どの時間をアレックスと共に過ごしている事実を、彼女自身が一番良く知っていたのだから、そこに疑う余地もない事は明らかだった。


「ロディは不思議な人ね。」
「私が? 何処が不思議だと言うんだい?」
「ギリシャからの留学生の割に、貴方はギリシャ人に見えないわ。」
「人種的な事を言うと、私はスウェーデン人だよ。でも、幼い頃にはギリシャに移り住み、ギリシャで育った。そんな人はザラにいるだろう。生まれはフランス、でも、育ちはロシア、とかね。私の周りには多いよ、そういう奴は。アイツも、そうだし。」


彼が親指で示した先には、同じギリシャからの留学生がいた。
黒髪に黒い瞳、他人の心まで射抜くようなキツい眼差し。
整った顔立ちをしているが、その寡黙な性格と目付きの鋭さのせいで、周りに人が寄り付かない。
ただ非常に真面目で、勉強熱心ではあった。
その男ならば、ギリシャ人だと言われても疑問に思わなかっただろう。
だが、アイツはスペイン人なのだと、彼はアレックスに告げた。


「どうしてフランスに留学を?」
「私の専攻は民俗学だって事は、アレックスも知っているだろう。この国の古くからの文化や風習に興味があってね。この大学で勉強したいと思ったのさ。」


そう、同じ民俗学の専攻だったからこそ、アレックスは彼の目に留まった。
教室で、図書室で、廊下で。
同じ授業を受けているからこそ、顔を合わせる機会も多く、何度となく目が合う内に、心惹かれていった。
所謂、極普通の『恋の始まり』というやつだ。
ただし、相手が普通の規格を遙かに凌駕した美男子だった事が、アレックスにとっては衝撃的ではあったのだが。


結果、その『圧倒的な美しさ』を彼が持っていた事が、アレックスを追い詰め、彼女に別離を決意させる要因ともなった。
すなわち、アレックスは他の女子達の不興を大いに買ってしまったのだ。
最初こそ、羨望の眼差しを向けられていたものが、徐々に嫉妬の眼差しへと変化していき。
更には、それが実質的な嫌がらせまで発展していった。
自分に余り自信のなかったアレックスには、それは耐え難い苦痛にしかならなかった。
同科の女子には冷たく突き放され、彼の居ない時には、陰湿な悪戯行為まであった。


結局、アレックスは強烈な嫉妬の視線を受ける事に耐えられなくなり、逃げ出す道を選んだ。
彼女が専攻していたのは、主にアジア地方の民俗学。
特に興味を持っていた日本への留学を、アレックスは彼に相談する事もなく、たった一人で決めた。
そして、彼がフランスでの留学期間を終えるのを待たずして、アレックスは日本へと旅立った。


そう、彼には何も告げないままに――。





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