書庫の廊下に静寂が戻った。
また二人きりになった、この場所。
でも、もう以前とは違う。
共に互いの気持ちを知り、理解し、今は強く想い合っているのだから。


「アシュリル、しっかりと掴まってろ。」
「え? あ、あの、アイオリア様?」


アイオリアが華奢なアシュリルの身体を抱え上げた。
そのままゆっくりと階段を下り、この痛みばかりを生んだ場所を後にする。
小さな扉を抜けて、二日振りに足を踏み入れた獅子宮のリビング。
そこは、あの狭く小さな部屋よりも、もっとアイオリアの匂いが濃く漂っていて、アシュリルは刹那、軽い目眩を覚えた。


「あ、あの、アイオリア様? ど、何処へ?」


リビングに入っても、アイオリアがアシュリルを降ろす気配はない。
それどころか、そのまま先へと進んでいく事に、アシュリルは戸惑った。
程なくして辿り着いた部屋には、大きなベッドが置いてあり、そこがアイオリアの寝室である事は、一目瞭然だった。


「あ、あの……。」
「ちょっと、待っていてくれ。」


まるで壊れ物を扱うように、そっとベッドの上へと降ろされたアシュリル。
今朝までとは違う、アイオリアの優しさ、そして、この場所とベッドの上というシチュエーション。
否応なくアシュリルの胸がドキドキと高鳴っていく。
だが、彼女に背を向けたアイオリアは、クローゼットの中へと頭を突っ込み、何やら探し物を始めたようだった。


「あった。これだ……。」


そう言って、振り返ったアイオリアの手には、彼の手の平と同じくらいの大きさの箱が握られていた。
アシュリルの手を取り、それをその手に乗せ、満足そうに頷くアイオリアと、呆然と見上げるアシュリル。
ゆっくりと頷きながらの目配せは、その箱を開けてみてくれと、そういう意味だと気付き、アシュリルは恐る恐る蓋を開けた。


「これ、アイオリア様のと同じ……。」
「あぁ。これと同じバングルだ。」


五年前、自分のものと揃いで買った銀のバングル。
ずっと渡せないままにいたが、今ならば――。


「昔、流行っただろう。好きな人と揃いで身に着けていると幸せになれるというアクセサリー。勢いで買ったは良いが、渡せないまま、ずっと持っていた。」
「それを、私に?」
「普通、こういう時は指輪なのだろうが……。受け取ってくれるか?」
「勿論です。嬉しい……、とてもとても嬉しい。」


アイオリアは箱の中に収まっていたバングルを取り出すと、それをアシュリルの左手首へと通した。
朝の光を浴びてキラリと光るバングルが、互いの手首に、同じだけの光を宿して輝いている。
アシュリルは、その漆黒の瞳に涙の粒をいっぱいに浮かべて、ギュッとアイオリアに抱き付いた。
今やっと、この心と心が繋がったと、そう思えた。


「二度と泣かせないと、シュラに約束したのに、もう泣かせてしまったな。」
「この涙は別物でしょう? だって、喜びの涙ですもの。」
「あぁ、そうだな。」


しっかりとアシュリルの身体を抱き締め返したアイオリアが、涙に濡れた美しい瞳を見つめる。
この漆黒の瞳と、この先ずっと見つめ合える幸福を噛み締めながら、アイオリアは愛しいアシュリルの唇に口付けた。
甘く優しく、そして、燃え上がる情熱を含んだ深いキスを交し合いながら、どちらからともなくベッドへと沈む。


ただ一方的に愛するのではなく、共に愛し合う事。
真っ白なシーツの上、二人が始めて心通い合った愛の海に溺れ始めた頃、窓の外では新しい一日が始まろうとしていた。



‐end‐





この話はサイトを開設して間もなくの2007年5月に、一度完結したお話を再執筆したものです。
ずっと、この話については書き足りないと思っていたというか、書いた当時の語彙とか文章力では表現しきれない部分が多くて、モヤモヤとしていたんです。
特に当時は大人描写を極力控えていたので、そのせいで自分の脳内で思い描いていた話とは、ちょっと違う気がしていまして。
なので、ブックの移動を機に、書き直してやろうじゃないか! リアのEROを追求してやろうじゃないか! と思い、大幅な加筆・修正へと踏み切る事になりました。
私的には、リアの暴走EROシーンをたんまりと書けて大満足です^^
でも、ちょっと濃くなり過ぎたかしら(苦笑)

ではでは、ココまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございました!

前執筆:2007.05.21
再執筆:2011.05.29



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