ゆっくりとベッドから降りると、足が酷く痛んだ。
だが、その痛みをグッと堪え、アシュリルは入口の扉へと真っ直ぐに向かった。
昨夜、アイオリアの手によって引き裂かれた服は部屋の中に残っておらず、仕方なく汚れたシーツで裸の身体を包み込んだアシュリル。
そのシーツを床に引き摺り、一歩一歩フラフラした足取りで進む。


程なくして到達した入口の扉の前。
だが、ドアノブを回しても扉は開かなかった。
あらかじめ、そうではないかと思っていたが、それでも落胆の気持ちは拭えない。
それでも、諦める事をせず、アシュリルは扉を隈なく調べ出した。


普通、部屋の鍵は内側から開け閉め出来るようになっているものだが、この扉にはそれがない。
代わりに、ドアノブの下には外側にあるのと同じように鍵穴が付いている。
つまりは、外側・内側、そのどちら側から開け閉めするにも、鍵が必要となる扉だという事。
鍵はアイオリアだけが持っているのだろう。
昨日、この部屋に入った時に、ガチャリと閉められた鍵の音を聞いたのを、おぼろげながらに覚えている。


小さな溜息を吐いたアシュリルは、入口の壁にもたれて部屋の中を見回した。
部屋には、扉があと二つある。
左側の壁、デスクの手前に一つ。
入口の扉よりも、ずっと豪華で頑丈そうなその扉は、部屋の位置関係から考えて書庫――、獅子宮のライブラリに繋がるものだろう。
念のため扉を開けてみようと試みたが、アシュリルの力ではビクともしなかった。


その扉の正面、入口から見て右側。
ベッドの手前にも小さな扉がある。
こちらの扉は、驚く程、すんなりと開いた。
中には、トイレと洗面台、そしてシャワーが備え付けられている。


それを見て、アシュリルは確信した。
やはりココは書庫に付帯する仮眠室だと。
とすれば、誰かが見つけてくれる可能性は極めて低い。
書庫の中には、その宮を守護する者、つまりアイオリア以外は立ち入る事は出来ないからだ。
例え、それが彼の従者であってもだ。
そうアシュリルは、何かの折に偶然、発見されるかもしれないという僅かの希望すら抱けない、そんな場所に閉じ込められてしまっていた。


アシュリルは零れ落ちそうになる涙を必死で堪え、首を左右にブンブンと振った。
今は落ち込んでいる場合ではない、気持ちをしっかりと保たなければ。
そう自分に言い聞かせると、もう一度、部屋の中へと戻る。


細いデスクの上にはパンと水差しが置いてあった。
多分、アイオリアがアシュリルのために運び込んだのだろう。
傍に置いてあったグラスに水差しの水を注ぎ、一気に飲み干す。
喉を通る水の感触に、少しだけ活力が甦った気がした。





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