貴方と私と二人の時間



私の恋人は、聖闘士でもあり海闘士でもある。
所謂、二足のわらじというもの。
しかも、聖域では黄金聖闘士、海界では海将軍、どちらか一方だけでも大変な役目。
どちらにしても重圧の掛かる身分にあって、こなさなければならない執務にしたって相当な量だろう。
そんな彼の働き振りは、見ていて、ただただ脱帽するしかない。


でも、本人は至って暢気と言うか、やり方が上手いと言うか。
二つの世界を行ったり来たりしながら、適度に力を抜いているようで、さほど疲れている風にも見えない。
ひたすら聖域の執務に没頭するサガさんと比べれば、随分とノンビリしていると言っても良いくらい。


「ん? 来ていたのか、アミリ?」
「あ、おかえり、カノン。」


私は双児宮で彼の帰りを待っていた。
サガさんが今夜は教皇宮に泊まり込みだと聞いたので、だったら、ココにお泊りしてしまえとの目論みで。
邪魔者と言ってはサガさんに申し訳ないけれど、この聖域にいる限り、あまり二人きりの時間は過ごせないのが現状。
だからこそ、サガさんのいない夜はチャンスなの。


「泊まるのか?」
「ん、そのつもり。あ、駄目だった?」
「いや、俺は構わん。」


寧ろ泊まりになるなら嬉しい。
そう少し唇を歪ませて笑うカノンの横顔が、何処かエロティックに見えた。
多分、お泊りと聞いて、今夜の計画を色々と頭の中で練ってるんだわ。
それが薄い笑みとなって、ありありと浮かんだに違いない。


「カノン、やらし。」
「何を言ってる。男は皆、そんなものだ。アミリだって、その気だろう? わざわざサガのいない時を狙って泊まりに来たぐらいだからな。」
「まぁ、そうと言えば、そうですけどね。」


カノンは喋りながら服を脱ぎ捨て、真っ白なTシャツとハーフパンツというラフな部屋着スタイルに着替えていた。
相変わらずの良い身体に、思わず見惚れてしまう。
しかし、朝から今の今までびっしり執務に掛かりきりだった割には、顔にも身体にも疲れの色は全く見えなかった。
数時間後に待つ濃厚な行為を思い描いてニヤけるくらいだもの、彼は疲れなんて感じていないのだろう。


「泊まりなら、別にサガがいたって構わんぞ。どうせ部屋は別々だ。」
「でも、やっぱり気になるでしょ。音が漏れないといっても。」
「そうなのか?」
「そりゃ、そうでしょ。翌朝とか、サガさんと顔を合わせたら、かなり気まずくなるし。昨夜はカノンとあんな事こんな事してたんだなって、彼に思われていると思うと、もう恥ずかしくて……。」
「考え過ぎだろう、アミリ。そういう事は気にした方が負けだ。」


確かに、そうだろうけど。
でも、やっぱり気になるものは気になるし、恥ずかしいものは恥ずかしい。
何しろ彼と血の繋がった家族、お兄さんなんだから、それは余計に。
他の黄金聖闘士さん達みたいに、一人住まいなら良かったのに、この双児宮では残念ながらそうはいかない。
はぁ、これも双子の宿命なのかしら。


「カノンが二足のわらじでさえなければ、もう少し一緒にいる時間が作れるのにね。」
「あ、あぁ……。そうだな。」
「ていうか、カノンはどうして私を海界に連れてってくれないの?」


あちらに連れてってくれさえすれば、サガさんの目を気にせずにイチャイチャ出来るのに。
向こうの守護柱には、カノン専用の部屋があると言っていた。
だったら、海界にいる間は、夜はソッチのお楽しみに没頭しても問題ない筈。
でも、歯切れの悪い返事をするカノンに、嫌な予感が沸いてくるのも事実。
もしかして、あっちに別の恋人がいたりして。
まさか、そんな事、貴方に限ってないわ、よ、ね?


「ない。それは絶対にない。俺は、こう見えてもアミリ一筋だ。」
「じゃあ、どうして?」
「それは……、まぁ、アレだ。あっちは他の海将軍達が、まだまだガキなヤツ等ばかりだからな。女連れでいったが最後、どんだけ冷やかされるかと思うと……。」


つまりは、私を海界の皆に見られるのが、恥ずかしいって事?
何よ、私に気にした方が負けとか言っておいて、自分の方がよっぽど気にし過ぎじゃないの。


「分かった、分かったから。次の機会に連れて行ってやる。ただし、後悔はするなよ、アミリ。」


二人きりの時間が増えるというのに、どうして後悔などするというのだろう。
この時、彼の言葉の意味を理解していなかった私は、海界に行けるという事ばかりに気持ちが盛り上がっていて、好奇心旺盛な十代のパワーを些か侮っていた。



貴方と過ごせるのなら、どんな場所でも幸せなの



カノンが私を海界に連れて行ってくれたのは、翌週の事。
目を爛々と輝かせたティーンエイジャー達の興味満々な視線と、もてなしなのか、からかいなのか判別出来ない盛大な歓迎を目の当たりにして、カノンがあんなにも渋っていた意味を、漸く理解した私だった。



‐end‐





この後、海界で夢主さんはイオやテテ子さん達から、色々と際どい質問攻めに合った挙句、心身ともに疲れきってしまい、カノンとイチャラブする体力・気力が一ミリも残らなかったと思いますw
それが分かっていたから、連れて行きたくなかったカノンの苦々しい渋面を想像すると萌えます、私が。

2012.05.10



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -