ミッドナイト・サプライズ



――コツーン……。


聞こえるか、聞こえないか。
その微かな音で目を覚ました。
手を伸ばしてベッドサイドの時計を引っ掴む。
暗闇に目を凝らして見れば、夜中の十二時を少し越えた時刻だった。


昨夜は、連続した任務の疲労が祟って、早くにベッドへと潜り込み、就寝した。
かなり長く眠っていたように感じたが、それでも、まだ眠り始めて二時間程度。
私は余程、深く濃い眠りの中にいたのだろう。


手にしていた時計を元の場所に戻すと、また、先程と同じく『コツッ』と微かな音が聞こえてきた。
こうして目覚めてもなお聞こえてくるのなら、夢や幻聴の類ではない。
可能性は少ないが、これが怪奇的な現象等であったらマズい、放っておく訳にはいかないだろう。
私は慌てて服を身に着けると、その微かな音の源を探りながら寝室を出た。


「これは……。」


音の原因は直ぐにも判明した。
微かに届いてくる音を辿り、プライベートルームを出れば、シンと静まり返った暗い宮内に、先程よりもハッキリと聞こえるのは、『コトッ、コトリ』と反響する細く高い音。
そして、月光の下でゆらゆらと揺れ動く人の影。


「……アイリス。何をしているんだ、キミは?」
「えっ?! わ、アフロディーテ様っ?!」


教皇宮へと続く入口、外から差し込む月光が照らし出すギリギリの床に、彼女は蹲っていた。
昼間と同じ真っ白な女官服の裾を広げて、冷たい石の床で何をしているのか。
私は呆れの溜息を零しながら、アイリスの手元を覗き込む。


「わっ! だ、駄目です! まだ完成してないんですから!」
「完成って、何がだ?」
「そ、それは……。」


言い澱むアイリスの身体を横に押しやって、彼女曰く、『作業中』の床を眺めやった。
細い月光の下、そこには何か『文字』らしきものが見える。
拾い集めた小さな石を並べて作られた文字。
入口付近の広い場所を存分に使って、書き途中の大きな文字が広がっていた。


先程から聞こえていた『コツン』という音は、これか……。
石畳の床に、この石を置いた時に鳴ったであろう音。
石と石とが触れ合って響く、細く高いあの音だったのかと納得する。


「何だい、この文字は? た・ん・じ・ょ・う・び・お――。」
「わぁ! だから、駄目ですって!」
「何を今更。もうバレてるよ。これは誕生日のメッセージだろう?」


任務に没頭していたせいで、すっかり忘れていた。
そうか、日付の変わった今日は、三月十日。
私の誕生日だった。


「真っ先にお祝いの言葉を伝えたかったのです。でも、アフロディーテ様、任務明けでお疲れのようでしたし、お邪魔するのは気が退けて……。」
「それで?」
「ココにメッセージを残せば、朝、教皇宮に向かう時に、絶対に気が付くでしょう?」


そうか。
それで、このような事を……。
疲れ果てていた私を気遣って、こんな夜中に、黙々と石を並べて、お祝いの文字を作っていたのか。
全く、何て可愛い事をしてくれるのだろう、アイリスは。


「中に入ろう。」
「え、でも……。」
「祝いの言葉なら、もう良い。もうちゃんと受け取れたからね。それに、こんな寒空の下では、キミが風邪を引く。折角の祝いの日に、アイリスに風邪を引かれては、私が困るというものだ。」
「アフロディーテ様……。」


そっと、その華奢な肩に手を回せば、夜風に当たっていた肌がヒヤリと冷たかった。
余程、この作業に没頭していたのだな。
寒さも感じない程に。


「こんなに冷え切って……。キミの身体には温もりが必要だな。」
「え、あ、あの……。」
「寧ろ、燃え上がるくらいの熱が必要かな? 私の身体から伝わる熱で、キミの内外に火を点けて上げなきゃいけないね。そうだろう?」


耳元に囁いた言葉が、宮内の静かな闇に甘く溶ける。
刹那、カアッと赤く染まったアイリスの頬と同じだけ、抱き寄せていた肩が熱を持つ。
そして、その細い肩先が、これから待ち受けるだろう情熱への期待に、微かに震え始めたのが感じられた。



サプライズよりも、欲しいのはキミの全て



「さて、まずは一緒にシャワーでも浴びようか。アイリスの身体は、こんなに冷えきっているしね。」
「そっ、そんな事、恥ずかしいですっ!」


恥ずかしさなんて直ぐに忘れてしまうだろう。
この腕の中、紡ぐ甘い夢の時間に乗ってしまえば……。



‐end‐





ディテさん、はぴば!
そして、一日遅れでスミマセン;

ちなみにディテさんはマッパで就寝しているので、様子見に起き出した時、パンツ履き忘れてれば良いとか、そんな事を思って書いたりしてないです、本当ですw

2012.03.11



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