それから一週間後の事だった。
外にはチラチラと雪が待っていた。
短い夏が終わると、この東シベリアでは秋を飛ばして冬が来る。
雪が降るのも、まだ比較的暖かな今の時期だけ。
冬が深まり、気温が下がれば、雪すら降らなくなる。
辺り一面が氷に閉ざされた、凍て付いた世界だ。


――バタンッ!!


突然、勢い良く開かれた、お店のドア。
開け放たれたドアの向こうから流れ込んでくる氷点下の空気に、私はブルリと身震いした。
が、その身体が震えたのは、その一回だけ。
次の瞬間には、お店の中へと入ってきた人物によって、私は強く抱き竦められていたから。


「何故、返事をくれなかったのだ、アイリス?」
「か、カミュ……?」


相手を見る前に抱き締められて、誰だか分からない。
でも、声は彼のものだ。
私の顔が押し付けられた胸を覆う黒のセーター、これは私がプレゼントしたもの。
そこから香るのも、彼が好んで使っている香水の微香。
そして、目の端に映る、ゆらりと揺れる毛先は、白一色のこの地では目に鮮やか過ぎる真紅。


「何故だ、アイリス?」
「だって、意味が分からなかったから……。」
「意味など……。書いた通りだ。」


閉じた瞼の裏にアイリスの姿がチラつき、眠れなかったんだ。
耳元にそう囁き、カミュはそのまま耳へと軽いキスを落とした。
触れた唇が熱い。
掛かる吐息が、掠めた彼の髪が擽ったい。


「あ……。」
「それだけ、アイリスの事を想っている。」
「わ、私も……。私も、カミュの事を想っているわ。」
「ならば、返事は?」
「返、事……?」


彼の胸から顔を離して見上げれば、僅か数センチの距離から、カミュが私を見つめていた。
いつも冷静さの衣を纏う彼の真紅の双眸が、抑え切れない熱情に深みを増している。
瞳の奥でユラユラと揺れる炎。
その瞳と目が合った刹那、胸の奥がトクンと大きな音を立てた。


長く彼の恋人として過ごしてきたけれど、こんなにも思いを滾らせ、情熱を露わにした姿は初めて見る。
常にクールであれ。
その信条の通り、いつも、いかなる時も、冷静で落ち着いていて。
豊富な知識と、溢れる知性で、私をリードしてくれる。
そんなカミュが、自分を抑えもせずに、こんなにも燃える想いを全身で伝えようとしている。
それだけで、私の心は高鳴り、身体は燃え上がった。
抱き締められ、触れ合う身体が熱い。
二人の間を隔てる洋服が、邪魔だとさえ思える程に。


「私は何て返事をすれば良いの? 何に対しての返事をすれば?」
「イエスと言ってくれれば良い、アイリス。それだけで良い。」
「はい、カミュ。貴方の望むままに。」
「これから、聖域に居る事が多くなる。あまりこの地には戻れないだろう。だから、アイリス。私と共に来てくれるな?」
「はい、喜んで。貴方が望むなら、地の果てまでも一緒に。」
「それは困る。アイリスには天国に行ってもらわねば。」


抱き締め合ったまま、クスクスと笑い合って。
互いに互いの頬を両手で包み、笑顔のまま軽やかにキスを。
繰り返して、また、口付けて。
そうして、気付けば深く甘く唇を貪り合う。


「実はな、皆で恋人の自慢話をしていた。私の恋人は、こんなにも素晴らしいのだと。」
「それで?」
「アイリスが傍に居ない事が、辛くなった。」


それで、あの手紙……。


「なら、やっと眠れる夜が来るのね。」
「いや、眠らせはしない。これからは毎夜、私の腕の中だ。目を閉じなくとも、アイリスが居るのだからな。」


再び耳元で囁かれた言葉が、心と身体に火を灯す。
赤く染まった私の頬を撫で、カミュがフッと口の端に浮かべた笑みの艶っぽさに、刹那、目眩を覚えた。



‐end‐





超お久し振りなカミュ夢、SSを除くと数年振りですね;
ありきたりネタ&内容グダグダで申し訳ないのですが、我が家ではレアキャラの我が師ですので、出来の悪さは大目に見てやってください(苦笑)

2011.10.30



- 3/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -