手 紙



律儀な人、だと思う。
長期の任務、聖域への帰還。
理由は様々なれど、長くこの東シベリアの地を離れている間は、二週間に一度、必ず手紙を送ってくれる。


一週間に一度でもなく、一ヶ月に一度でもない。
それはまめではないけれど、決して無精でもなく。
私のようなノンビリした人間には、ちょうど良いペースなのかもしれない。
長く音信不通であれば、忘れてしまう事もあるだろう。
だけど、二週間に一度の手紙は、忘れてしまう事を許さないと言っているかのように、私の元へとキッチリ届けられる。
その辺が律儀で、彼らしいと思う。


カミュが、私への手紙を怠った事は、これまで一度もない。
勿論、氷河クンとの戦いに敗れ、命を失っていた、あの時期を除いてだけれど。
それ以前も、再び命を取り戻して帰ってきた今も、カミュからの手紙には何の変わりもなかった。


キッチリと二週間おきに届けられる手紙には、日常の些細な事が、カミュらしい簡潔な文章とありふれた言葉で綴られている。
なのに、時折、そのありきたりな言葉が、私の頬を赤く染め、身体の内側に密やかな火を灯す。
それは狙ってのことなのか。
いや、カミュのことだもの、無自覚・無意識に書いてしまっただけなのだろう。



***



『この数日、聖域でも風が冷たくなってきた。そちらは、聖域とは比べ物にならない程、気温が低い。もう冬と言えるだろう。風邪など引いてはいないか、アイリス?』
「大丈夫よ、カミュ。心配性ね。」


『野菜の販売量が減ってくる時期だ。氷河は栄養バランスのとれた食事をしているだろうか? あの子はそういうところを疎かにしがちだから、とても心配だ。』
「心配性過ぎるわ、カミュ。氷河クンの食事は大丈夫。私がちゃんと見ているもの。」


『同僚のシュラから、美味しいワインを貰った。一本はアイリスのために、持って帰ろうと思う。』
「ありがとう。楽しみに待っているわ。」


届いた長い手紙を手に、こうして会話を楽しむ。
遠く離れた聖域にいるカミュと、時間差の会話。


電話でも、メールでもなく、手紙。
カミュらしい。
彼にとって、書く事は苦にならないのね。
それが、どんなに長い手紙でも。
私が想いを乗せてカミュへの手紙を書くように、きっと彼も同じなんだわ。
想いを籠めて書く、長い長い手紙。
取りとめのない内容の手紙だけれど、私達にとっては大切な、心と心を繋ぐ糸。





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