懐かしい日々



部屋の掃除をしていた。
何でこんな暑い日に、無駄に汗を掻きながら掃除なんてしているかというと、アミリアにこっ酷く叱られたからだ。


そりゃあ、俺も悪いよ。
足の踏み場もなくなるくらい散らかして、片付けようともしなかったんだから。
でも、だからって、あんなに怒んなくても良いと思うんだが……。


――チリン、チリン。


見上げれば、窓枠に吊るされたガラスの風鈴が風に揺られ、耳に心地良い音色を響かせている。
冷房なんて都合の良い設備のない、この宮のプライベートルーム。
せめて気分だけでも涼やかにと、アミリアが持ってきたのが、この風鈴だった。
聴覚から涼しくなろうなんて、日本人は面白い事を考える。
だが、悪くない。
俺は不規則でいながら、決して邪魔をしない風鈴の音色に癒されつつ、部屋の片付けを続けた。


数時間後。
こんなに汗だくになってしまったんだし、ついでにクローゼットの整理もしてやろうかなんて思い至り。
数年、いや十数年もの間、手付かずだった扉を開けた。


そこは思い出の宝箱だった。
出てくるもの、出てくるもの、みんな懐かしいものばかりだ。
それは子供の頃、まだ聖闘士候補生だった頃の……。


「アミリア、ちょっとこっち来て!」
「何、ミロ?」


パタパタと可愛らしい足音を響かせて、アミリアが姿を現す。
一体、何事かと怪訝な顔をして覗き込んできたアミリアの目の前に、俺は手にしていたものを突き付けた。


「これ、浮き輪?」
「そう、子供の時に使ったヤツだな。」
「ちっちゃくて可愛い。今のミロじゃ、太股一本くらいしか入らないんじゃない?」


赤いストライプの模様が入った浮き輪は、確かにアミリアの言う通り、とても小さかった。
子供用だからだろう、大きさに比例して真ん中の穴も小さく、今の俺では首から下には下がらない。


「ミロ、泳げなかったの?」
「恥ずかしながらな。と言っても、まだ四歳くらいだぞ。聖闘士の修行を始めて直ぐの頃だ。」


これを買ってくれたのは、ロスにぃだった。
俺一人だけ泳げなくて、いつも泣いていたから、「特別だぞ。」と、そう言って。
皆に内緒で、こっそりとプレゼントしてくれたんだ。


「そうだ、アミリア。明日、天気が良ければ海に行こう。」
「海? どうして、急に。」
「これさ、見てたら泳ぎたくなった。良いだろ、たまには。」
「そう、そうね……。部屋の片付けも、ちゃんと終わらせたみたいだしね。行こっか、海。」
「あぁ。」


明日はアミリアと、海でひと時の休息。
今はもう使えなくなってしまった浮き輪。
黄金聖闘士となった俺には必要のないものだけど、このままずっとアミリアと一緒にいたならば……。


いつかきっと、またこれを使う日が来るかもしれない、よな。



小さな小さな浮き輪
この先も二人を繋ぐ輪になれば良い



‐end‐





夏のお題、四つ目は『ミロと浮き輪』でした。
ホノボノ目指して撃沈、みたいな(苦笑)
意味不明でゴメンナサイ;
久し振りにミロたんをドリ夢で書いたら、難しかったです。

お題は、これで全コンプ。
外はもう、すっかり秋の気配(苦笑)
もっと早くに書き始めれば良かったと、いつもながらの反省ばかりしております。

2011.09.23



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