スパークリング



用事があって宝瓶宮を訪れた。
書類にカミュ様のサインを貰ってきて欲しいと、サガ様に頼まれて、教皇宮からココまで下りてきたのだが。
用事を終えて、本来なら直ぐにでも戻らなければいけないところなのに、この茹だるような暑さ。
流石に、戻りの足も前へ進もうとしてくれない。


「少し休んでいったらどうだ、アミリア?」


少々グッタリしていた私に、この言葉は神の声にも等しくて。
勧めに従い、遠慮なく午後のお茶などを頂くことにした。


「すまない、アミリア。アイスティーでもと思ったのだが、茶葉を切らしていてな。このようなものしかないのだが……。」


そう言って、カミュ様が運んできたグラスには、アイスティーとは似ても似つかぬ真っ黒な液体が入っていた。
微かに聞こえるシュワシュワという軽やかな音。
グラスの中で、絶え間なく浮かんでは消えてゆく細かな気泡。
アイスティーでも、アイスコーヒーでもなく、これは……。


「コーラ?」
「ああ。嫌いだったか?」
「いえ、大丈夫です。でも、何だか変な感じがしますね。」


まさか、カミュ様のところでコーラを出されるなんて、予想外も良いところ。
コーラなんて、全く彼は好みそうにない。
それは勝手過ぎるイメージなのだけれども、彼ならアイスティーか、そうでなければオレンジジュースとか、そういうスタンダードな飲み物を好みそうなのに。


「オレンジジュースは今朝、飲んだのが最後だった。後で買いに行こうと思っていたんだが、どうやらタイミングが悪かったようだ。」
「それで、コーラしかなかった、と?」
「残念ながらな。と言っても、ミロのだが。」
「ミロ様の? 勝手に飲んで良かったのですか?」
「置いていったアイツが悪い。」


そう言って、カミュ様はスッと目を細め、楽しそうに微笑む。
普段は、あまり表情を動かさない彼だけに、その微笑は印象的で。
思わず、その端正な顔をマジマジと見つめてしまった。


「たまにはコーラも悪くない。そう思わないか、アミリア?」
「そうですね。たまには、ね。」
「暑いからこそ、刺激も必要だろう。」
「えぇ。その通りですね。」


何かを予感してか、チラリと向けた視線と視線が交差する。
汗を掻いたグラスの中、ゆっくりと溶け出していた氷が、カランと音を立てて揺れた。



この続きは、日暮れの後で
コーラよりも刺激的な夜になれ



‐end‐





夏のお題、二つ目は『カミュとコーラ』でした。
あまり見ない意外な組み合わせを、と思って考えていたら、こんな感じに仕上がりました。
宝瓶宮にコーラがあるとすれば、ミロの置き土産しかないだろうと思うのは、私の偏見でしょうか(笑)

2011.09.02




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