抱き締める腕の力が、更に強くなった。
頭ではシュラ様に抱き締められているのだと理解していながら、その事実を信じ切れないでいる自分。
仄かな灯りだけのホテルの部屋で、思いを寄せる相手に抱き竦められて。
私はいつの間にか、夢の続きに飛び込んでしまったのだろうか?


「あ、あの、シュラ様……。酔ってらっしゃるのですか?」
「あぁ、酔ってる。だが、思いもしない事を口走る程、泥酔してはいない。」
「思いもしない、事……?」
「俺が、好きでもない女を口説くような男に見えるか?」


違う、シュラ様はそんな人ではない。
慌てて首を振るも、強く抱きしめられている現状では、僅かに髪が揺れる程度にしかならなかった。
だが、サラサラと揺れた髪が、彼の肌を擽り刺激したのか、シュラ様の全身がビクリと揺れたのが分かる。
こんなに密着していれば、互いの心音も、吐く息の音も、何もかもがそのまま伝わってしまうだろう。


「俺は口数の多い方ではない。積極的な性格でもない。良い機会があればと思いながら、随分と月日が立ってしまったが、やっと――。」


バクバクと早鐘を打つ心音は、私のものではない。
触れる熱い胸の奥、シュラ様の心臓が奏でる音だ。
こんなにも私を、私の事を想っていて下さったなんて、少しも気付かなかった、知らなかった。


「やっとこうして、アミリアを抱き締められる。」
「シュラ……、様……。」
「嫌か? 俺では、駄目か?」


嫌な筈ない、駄目な訳ない。
寧ろ私が聞きたい、「私で良いのでしょうか?」と。
なのに、思うような言葉が出てこないのは、どうしてなのか?
心が戸惑い、自分自身で、この幸運を潰そうとしてしまう。


「あの……。私、自分の部屋にチョコレートを用意してあるんです。今日、シュラ様に渡せたらと思って――。」
「チョコレートなどいらん。アミリアがいれば、それで。」
「あ……。」


塞がれた唇は、それまで感じていた手や身体や全ての熱さよりも、ずっとずっと熱く。
僅かに残っていた思考も理性も、一瞬で吹き飛ばす力を持っていた。
激しく熱いキスに溺れて、溺れて、そして、翻弄されて。
シュラ様にならば、私の何を失っても、この奔流に身を任せてしまいたいと思う。


それでも、無意識に最後の抵抗を示してしまうのは女の性(サガ)なのか。
軽くその胸を押し返して、唇を離す。
荒い呼吸、逸らす視線、突っ張り押し返す腕の力。
必死で自分を抑えようとする自分と、そんな自分を頭の隅で罵る自分が錯綜(サクソウ)する。


「あの、チョコレート……。取りに、行きます、から……。」
「ならば、共にアミリアの部屋へ行こう。そこで、お前の全てを俺色に染める。」
「そ、んな……。あの、私の部屋はシングルルームですし、こんなに広くな――。」
「ベッドも小さいのだろう? その方が、なお良い。より濃く深く一つになれるだろうからな。」


再び施されたキスは、激しさよりも甘さが勝って。
艶かしく舌が絡む度に、必死で踏んでいた理性のブレーキが、やんわりと外されていく。
唇から広がる熱で、既にシュラ様に染められ始めたこの身体全て、彼の色に染め変えられたいと欲した。



爪の先まであなたへの愛で



染めて、染めて、染めて下さい。
ただ貴方の色、一色だけに。



‐end‐





「バレンタインに口説かれよう!」をテーマに書いた、今年のバレンタイン夢。
我が家の年中キャラ設定が如実に現れました、はいw

魚さんは、マイペース強引。
→真昼間から薔薇の匂いのするベッドでエッティーなバレンタインv

蟹さんは、面倒見の良い俺様。
→手作りチョコを食べながら、ソファーの上で甘いメイクラブv

山羊さんは、無意識フェロモン垂れ流し(笑)
→ホテルのシングルベッドで濃厚バレンタインナイトv

山羊さんだけ四頁もあるのは、ザ・えこ贔屓です。
書き始めたら三頁じゃ収まりませんでした、山羊さんの垂れ流しERO小宇宙は(苦笑)

相変わらず、魚さんは相手の意思は無視で、ペース(とベッドw)に引き摺り混みますし。
蟹さんは俺様を貫きながらも、上手い事、ちゃかかり自分を売り込んでますし。
山羊さんは、物の初めからフェロモンで陥落w
という、いつもながらの年中パワー大全開なんですが、まぁ、楽しんで頂けたなら幸いです。

魚夢 2011.02.06
蟹夢 2011.02.13
山羊夢 2011.02.20



- 10/10 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -