「だから、俺って事か。ったく、人をなンだと思ってンだか……。しゃあねぇ、教えてやるよ。そうだな……。報酬は、そこに瓶が置いてあンだろ。」
「これ、ですか?」
「おう、それそれ。それと同じイタリアワイン、年代も同じものを一本用意しろ。それが授業料だ。良いな、アミリア。」


ニヤリと笑ったデスマスク様に、私は慌ててコクコクと頷いてみせた。
気紛れ屋の彼の気が変わらない内に、ちゃんと約束を取り付けておかなければ。
私のこの計画は、台無しになってしまう。


「バレンタインまで、あと十日しかねぇぞ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫です。必死で頑張ります! 寝る間も惜しんで!」
「寝る間は惜しむな。俺は睡眠時間を削ってまで、付き合う気はねぇよ。あと、俺は厳しいぜ。途中で根を上げンじゃねぇぞ。」
「はい、デスマスク先生!」


その日から、デスマスク様のお料理(お菓子作り)教室が始まった。
「俺は厳しい。」との言葉は嘘偽りなく、本当に本気で厳しかった。
お菓子を作った事はあまりない私に対しての配慮など、これっぽっちもなく、頭ごなしにガンガン怒鳴ってくる。
怒られれば怒られる程、萎縮して緊張し、そして、またミスをして怒られる。
それの繰り返しだった。


「オマエ! チョコレートは温度が命だ! 適当にやってたら、一生、上手く出来ねぇぞ!」
「は、はい……。」
「イイか、アミリア。室温は二十度。湯せん用の湯は五十度。チョコレートを滑らかに溶かしたら、冷水を使ってチョコレートの温度を二十六度に下げる。ゆっくりボールの底を擦るように良く混ぜながら下げンだぞ。で、次は四十五度の湯に戻し、チョコレートの温度を三十一度に上げる。型流しまでは、この温度を保て。三十一度から一度でも越えたら、二十六度に下げるトコからやり直しだ。」


次々と飛ぶ指導と指示の声。
指示というより、これはもう怒鳴り声に近い気がする。
耳が痛い上、怒鳴り声に連動して、身体がビクビクと震える。


「そんな! 一度でも、だなんて、厳し過ぎます!」
「アホか。これはテンパリング(温度調節)の基本だ。これが出来なきゃチョコレートの光沢は出ねぇ。見た目が綺麗じゃなきゃ、味以前の問題だ。」
「なら、光沢のないトリュフとかを……。」
「基本も出来ねぇヤツに、教える気はない。」


知ってはいたけど、デスマスク様って本当に『俺様』で『鬼畜』なんですね。
優しさの欠片も、あったもんじゃない。
ちょっとだけでも褒めてくれれば、やる気も倍増、上達も早くなると思うのに。
デスマスク様ったら、ニコリともしないんだから。
怒鳴られる度にヘコむし、泣きそうだ。
まぁ、泣いたところで慰めてもくれないだろうし、逆に「やる気のないヤツは帰れ。」と、追い出されそうだけど。


あと十日、これが続くなんて……。
自分からお願いしといてなんだけど、いっそ逃げ出したい気分。
でも、シュラ様に最高のチョコレートを渡すのだと思えば、それも気合で何とか乗り越えられそうな気がした。





- 5/10 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -