ティータイムを貴方と



「あ、渋い……。」


久し振りの休日。
お部屋のお掃除も、溜まっていたお洗濯も、午前中の内に終わらせてしまったし、今日はお天気も良い。
これから出掛ける予定もなく、窓の傍で差し込む日差しをいっぱいに浴びながら過ごす、のんびりとした午後。
外はまだ冬の寒さが残るのだろうが、こうして室内にいればポカポカに暖かくて、私は零れる欠伸を噛み殺しながら午後のお茶を淹れていた。


が、抑え切れない眠気のせいで蒸らし時間を間違えたのか、それとも、新しい茶葉が濃く出るものだったのか。
カップに口を付けてみると、口内に広がったのは紅茶の甘さよりも際立つ渋さ、そして、苦味。
明らかに濃く淹れ過ぎたようだった。


「どうしよう、これ。勿体ないな……。」


捨ててしまうのは簡単だけど、そうする事には、いつも罪悪感を覚える。
折角、部屋の中がこんなに暖かいのだから、いっそアイスティーにでもしてしまおうか。
氷をいっぱい入れて薄くなれば、少しは飲めるかもしれない。
いっそ、ガムシロップをたっぷり混ぜて、レモンも絞って、そこに炭酸水を。
たまには『ティーソーダ』というのも、悪くないんじゃない?


「ふ〜ん。珍しいものを飲んでるね、アミリア。」
「え? だ、誰っ?!」


ティーソーダのグラスを片手に窓辺に戻ったところで、背後から声を掛けられた。
ココは自分の家の中、他には誰もいない筈。
そして、ちゃんと鍵を掛けていたのだから、簡単には入れない筈。
なのに、驚きで振り返った私の目に映ったのは、真っ白なシャツと、シャツ越しでも分かる逞しい胸板。
そこから顔を上げれば、目を見張る程に麗しい美貌が、午後の光の中で楽しげに微笑んでいた。


「あ、アフロディーテ様っ?! どうして、ココに?!」
「この香り……、ルフナかな? 炭酸で割ったんだ。ルフナならミルクを入れた方が美味しいのに。」


私の質問は軽く流し、アフロディーテ様は呆然とする私の手から、いとも簡単にグラスを奪う。
そして、私の目の前で、グラスの中身をゴクゴクと飲み干してしまった。
酷い!
折角、どんな味になっているのか、楽しみにしていたのに!


「うん、渋い。ルフナは元々渋めの紅茶なんだから、こんなに濃く出したら、幾らソーダで割ったところで誤魔化せないよ。」
「それは……、ついうっかりで……。」


そんな事よりも、彼がどうしてココにいるのか、どうやって中に入ってきたのか、私はまだ、その答えを聞いていない。
ティーソーダなんかよりも、そっちの方が遥かに重要事だ。
そんなに簡単に開けてしまえるような鍵なら、新しく付け替えなければならないもの。
でも、そんな私の危惧とは裏腹に、アフロディーテ様は綺麗な瞳を柳のように細めて、クスクスと笑うばかり。





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