雨音のベール



突然の雨に降られて、俺は十二宮の階段を駆け上がっていた。
途中までは、まだ何とか耐えられる程度の雨足だったそれが、双児宮を目前にして、どしゃ降りの雨に変わる。
一寸先も見えない滝のような雨。
これはまずいと、更に速度を速めた、その時。
光速で流れる視界の片隅に、激しい雨に打たれて階段を駆け上がる事もままならずに立ち往生するアミリの姿を、滝雨の向こう側に捉えた。


「掴まれっ!」
「え? あ、は、はい!」


彼女を、そのままそこに放っておく訳にもいかない。
一旦、足を止めた俺は、追い抜かしてしまったアミリへと駆け寄って戻り。
そして、問答無用で抱き上げ、再び上へ向かって駆け出した。


きっとアミリには、俺が誰だかすら分からなかったに違いない。
やっとの思いで双児宮に辿り着けば、安堵の溜息と共に、そっと彼女を床に降ろした。
自分の濡れた服を絞りながら視線を落とせば、呆然と床に座り込んでいるアミリの姿が映る。
漸く焦点の合った瞳で俺の顔を捉えると、素っ頓狂な声を上げた。


「……かっ、カノン様?!」
「何だ、その有り得ないといった顔は? 俺だと問題でもあるのか?」
「あ、いえ、そういう訳ではなくて……。えっと、ありがとうございました。」


びしょ濡れで全身から雫を滴らせながらアタフタとする様は、見ていてちょっと面白かった。
床にペタンと座り込んだまま、ヒョコっと頭を下げる、日本人みたいなお辞儀の仕方も。
思わずフッと笑みが零れた。
それを隠すように髪を掻き上げた時、手に触れた冷たい感触で、自分がびしょ濡れだった事を思い出す。
そして、頭を下げるアミリの周りにも、彼女から零れた雨で水溜りが出来ていた。


「このままでは風邪を引くな。来いよ。着替えとシャワーくらい貸してやる。」
「……え?」
「お前が必要ないと言うのなら、無理にとは言わんがな。それとも、俺の宮では不満か?」
「いっ、いえいえいえ! 滅相もない!」


慌てて首と手を振り否定したアミリは、急いで立ち上がると、俺に続いて双児宮のプライベートルームへと入ってくる。
とりあえずはと思い、数枚のタオルを彼女に渡した俺は、自分がシャワーを使っている間、待たせておくのも可哀想だと思い、勝手ではあるがサガの浴室を貸してやった。


「二つもお風呂場があるのですか?!」
「俺は一つで十分だと言ったんだがな。サガが専用の風呂が欲しいと言い張って……。まぁ、アイツの長風呂を待って苛々するよりかはマシだから、作り足して正解だったとは思うが。」
「サガ様って、本当にお風呂好きだったんですね。噂だけかと思ってました。」


まさか、こんなところで話のネタにされているだろう事など知らないサガを思いつつ、俺達はそれぞれの浴室内へと消えた。
熱いシャワーが、不快な雨の感触を洗い流すように身体を包み込んでいく。
頭からシャワーを浴びつつホッと吐いた息が、丸い湯気の形になって昇っていくのが視界の中に微かに映った。





- 1/4 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -