Love gone



ねえ、サガ。
貴方も今、この星空を見てる?


私に星座の名前を教えてくれたのは、貴方だったよね。
晴れた春の夜、幼い頃の私は、いつも星空を見上げていた。
勿論、双子座を探すために。
知っているでしょ?
知っているわよね?


貴方から教えて貰った事は他にも山程あった。


聖域で唯一、蓮華の花が咲き乱れる丘。
秋には金木犀が香る、聖域の森の奥に広がる、小さな秘密の野原。
教皇宮の裏手、十二宮を一望出来る大きな木の上の特等席。
ジャムを落とした仄かに甘い紅茶と、ラムに漬けたレーズンがほろ苦い、大人の味のクッキー。
長い長いアテナと聖闘士達の歴史も。
全て貴方が教えてくれた事。


そして、私の中に生まれたこの感情も、サガが与えてくれたものだったのよ。
自分でも抑えられない、この気持ち。
胸が締め付けられる甘い息苦しさ。


そう、これは『恋の切なさ』。
一人では決して知り得なかった事。
他の誰でもない貴方と、二人で見つけた事。
サガの横で、サガと共に、サガと二人で過ごす、かけがえのない時間。


「……アイリス。」


貴方の呼ぶ声がして。


「……サガ。」


私の返す声が響く。


今思えば、過ぎ去った二人の時間は光の如くに早くて。
それは楽しかったから。
それは充実してたから。
だけど、季節は風のように過ぎ、大切なものは私の前から消えてしまった。


そう、貴方はもうココにはいない。
この聖域から、私の前からも、サガは姿を消してしまった。
ある日、突然に。
私の中に、少女の淡く切ない恋心だけを残して。


ずっと貴方と一緒にいたかった。
誰よりも貴方と二人でいたかった。
あの光り輝く日々は、二人だからこそ幸せだった。
二人だからこそ大切だった。
二人だからこそ守りたかった。
この星空を二人で見上げていたかった。


何故、貴方は姿を消したの?
何故、私を置き去りにしたの?
ずっと二人でいられると、信じていたのに。
私の全ては、サガだけのためにあると思っていたのに。


この声が届くなら、答えて欲しい。
貴方は今、何処にいるの?


この十三年の間、私は何度も夜空に双子座を探した。
きっとサガの瞳にも、同じ星が映っているような気がして。
あの頃と変わらず、サガもどこかでこの星空を見上げていると信じたいから。


「サガ、私は貴方を想っているわ、今でも……。」


飲み込まれそうな真っ暗な夜の空に向かって投げ掛ける言葉。
何処とも分からぬ闇に飲まれて消える。
月のない闇夜、私は一人、涙を堪えた。



無くしたものが沢山ある
ずっと二人だと思っていたのに



これは過ぎ去った恋だと分かっている。
サガには、私以上に大切な何かがあるのだと。
それでも願わずにはいられない。


「……アイリス。」


私を呼ぶ声が聞こえてくる事を。
サガがココに帰ってくる事を。


貴方と私、あの頃と同じ『二人』に戻れる日が来る事を。



‐end‐





埋蔵作品を発掘しよう第二弾でサガSSです。
これの元になる夢がUSBの中から出てきまして、折角だから手直しして出してやろうと思った次第です(安直)
書いたのはサイト開設以前なので、三年くらい前のものですか;
色々とヒドい文章でスミマセン、手直しも改行程度しかしてなi……、げふげふ。

えと、簡単に補足すると、この話は十二宮編ちょっと前の設定です。
十三年前に急に姿を消したサガを想い続けるヒロインの独白的な一方通行の愛の告白みたいな話。
過去作品ごった煮の<アイオロス編>の中に『雨が降る度に』という話がありますが、それと対で書いた話でした、多分。
サガバージョンの『会えない人を想う切ない恋話』みたいな感じで。
でも、ヒロイン独白で夢小説って感じじゃなかったので没にしたんだと思います。
そして、最近まで眠っていた、と(汗)

ちなみに、この後、サガとヒロインがどうなったのかは、読んで下さった方の想像にお任せします。
お好きに妄想してやって下さい(笑)

2009.08.25



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