こんな休日



「あれ? サガ?」


まだ眠気のたっぷりと残る身体を無理矢理引き摺り起こし、生欠伸を噛み殺しながらリビングに出て行くと、そこにはいる筈のないサガの姿があって。
私はその場に呆然と立ち尽くし、優雅にコーヒーなんか飲んじゃってる彼をマジマジと眺めた。


「なんで? 執務は?」
「今日は休みだが。」
「えぇっ?! 休み?! サガが?!」
「何故、そんなに驚く?」


だって、私が双児宮に移り住むようになってからというもの、サガが休みを取った日なんてなかったし。
それどころか、教皇宮に泊まり掛けで引き籠もりのように執務を続け、帰って来ない日だってあるのに。
朝のこの時間、ダイニングの彼の定位置に陣取ってノンビリとコーヒーを啜る、そんな穏やかなサガの姿が見れる日が来るなんて、考えもしなかった。


「そんな所に突っ立ってないで、アイリスも朝食にしたらどうだ?」
「……え? あ、あぁ、良いの。朝は食べないから。」


そう言って、やっとノロノロ動き出した私は、サガの横をすり抜けてキッチンへと入った。
冷蔵庫から取り出した鮮やかな赤い色のブラッドオレンジジュースをグラスにたっぷりと注いで、それを口に運びながら戻る。
ガタッと引いた椅子に座ると直ぐ、サガが明らかに険しい表情をして、キツい視線を私に向けているのに気が付いた。


「……何、サガ?」
「アイリス、行儀が悪いぞ。飲むなら、ちゃんと席に着いてからにしなさい。それと、朝食はしっかり摂らなければ駄目だ。健康に良くない。」


サガの向かい側に座っていた私は、ただ唖然とその顔を眺めた。
正直、不健康を絵に描いたような生活をしているワーカホリックの彼に、そんな事を言われたくはない。
その端整な顔に指を突き付けて、「人に指図するなら、ちゃんとした人間らしい生活をしてからにしてよね!」と、言い返したくなる。


「サガ……。折角の休日くらい肩の力抜いて、リラックスしたらどう?」
「何だ、アイリス? 唐突に。」
「だって、家の中でも、そんなに堅苦しい事を言ってたら、疲れだって抜けないでしょ? やっと取れた久し振りの休みなんだし、自堕落に過ごすのも悪くないんじゃないの?」


私は立ち上がってサガの後ろへ行くと、その肩に手を置き、ポンポンと軽く叩いた。
次いで、その肩をギュッギュッと揉んで上げる。
大きくてガッシリと筋肉の付いた肩は、仕事のし過ぎで溜まった凝りのせいもあって、かなりパンパンに張っていて揉み辛かったが、それでも、私は手を止めなかった。


「自堕落か……。」


暫くして、サガの口から零れ出た言葉。
随分と簡単に効果が現れたのは、肩を揉み解した効能かしら?
なんて思ってたら、突然、振り向いた彼に、思いがけず肩を強く引かれた。


――グイッ!!


「むぐっ?!」


中途半端な体勢で重なった唇は、触れるだけでは済まなくて。
貪欲なサガの舌によって、口内の奥深く隅々まで探られる。
熱く潤ったサガの濃厚過ぎるキスは、先ほど飲んでいた苦いコーヒーの味がした。


「自堕落とは、こういう事か? アイリス。」
「馬鹿っ! いきなりこんなのって……。」


振り返ったまま私を見上げるサガの瞳は、悪戯な光でキラキラと輝いて。
この人にも、こんな茶目っ気があるのねと思いつつ、私は赤く染まった顔を隠すように逸らして、彼の傍から離れた。



何気ないひと時が、こんなにも嬉しくて照れ臭い



背後から、私の後を追って立ち上がった椅子の音が響く。
ゆっくりと近付きつつある足音は私のものよりも遅いのに、でも、直ぐに追いつくと知っていて。
トクントクンと小さく高鳴る胸は、これから起こる本当の『自堕落な時間』への期待でいっぱいになる。
そして、自分の部屋のドアノブに手を掛けた瞬間、背後から伸びたサガの手が、私の手に重なった。



‐end‐





久々のEROビーム放出サガ様(笑)
真面目ちゃんに見せかけといて、実はしっかり狼さん。
そして、朝から色々と勤しむ訳ですよ!(何を?)
こちらはサイトの二周年記念に、Aさんへ。
どうぞお受け取り下さい。

2009.01.28



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