そんな貴方が



「バ〜ラ〜ン〜!!」


長い廊下の先に、どんなに遠くからでも絶対に見間違える事のない大きな背中を見つけて、私はダッシュで廊下を走った。
静かな教皇宮の廊下に、バタバタと走る私の足音と、彼の名を呼ぶ大きな声が響く。
その音は幾重にも反響して、のんびりと歩く彼の耳にも届いたらしい。


「ん? 何だ?」
「アルデバラ〜ン!!」


彼が振り返るのと、ほぼ同時に、追い付いた私が全力で飛び付く。
ボフッと音を立てて、それこそベッドに飛び込んだみたいに、空気が吐き出される音がした。
が、どんなに全力のタックルでも、彼はビクともグラリともせずに、ちゃんと柔らかく私を受け止めてくれる。
その感触が心地良くて、いつも甘えるように飛び付いてしまう私がいた。


「えいっ!」
「何だ、何だ?」


極めて背の低い私では、大きな身体の彼に飛び掛かったところで、その腹筋に頭が届くくらい。
逞しく頑丈で、それでいて弾力のある彼の腹筋に顔を埋めたまま、私はその広い腰周りに腕をいっぱい広げて、ギュッと抱き付いた。


「えへ、アルデバラン捕まえたっ!」
「ははっ、捕まえられてしまったか。お前に捕まってしまうようでは、黄金聖闘士失格だな。」
「もう離さな〜い。私だけのもの〜!」


大きなのは身体だけじゃない。
窓の向こうに広がるあの空のように、何処までも終わりのない大きな心で私をいつも包んでくれる。
私の小さな身体も、その中にある無限の想いも。
だからだから大好きなの、アルデバランの事が。


「おぉ? 仲良いな、お前達。」
「へへへっ。アルデバラン捕まえたんだよ。ロス兄ぃ、良いでしょ?」


偶然、通り掛ったアイオロスが、私達の姿を見て和やかに微笑んだ。
これがサガだったら、「廊下で騒ぐな!」と怒られてしまうんだけど。
そんな時は、いつもアルデバランが私を庇ってくれるから、私には怖い物なんて何一つない。


「こっちから見てると、アルデバランの方が、アミリを捕まえてるように見えるんだがな。」
「何よー! 私が捕まえたの! アルデバランは私のものなんだからっ!」
「ははっ、そうかそうか。アルデバランが羨ましいな!」


満面の笑みを浮かべて去っていくアイオロスを見つめながら、その間、私はずっとアルデバランのウエストにしがみ付いたままだった。
そんな子供みたいな私を叱りもせずに、しっかりと受け止めて。
いつの間にか髪を撫でてくれる大きな手が、とてもとても心地良かった。
誰よりも大きな手なのに、誰よりも温かで、ふんわりと優しく撫でてくれる力加減。
この手一つで、私は猫のように彼に擦り寄ってしまう。
彼から離れられなくなる。


「仕事も終わったし、これから行きたいところはあるか、アミリ? 何処でも連れてってやるぞ。」
「本当に? じゃあねぇ……。」


しがみ付いていた腕を少し緩めて、彼を見上げる。
大らかに微笑む、その瞳の輝きに、私の心は弾んで、同じだけにこやかに微笑み返した。


「じゃ、金牛宮に行こっ! ね?」
「部屋に帰るのか? 何処でも連れてってやるといっているのに……。」
「二人っきりになれるところが良い。誰にも邪魔されないところで、アルデバランに引っ付いてたいの。」
「そうか、分かった。なら少し早いが、宮に帰ろうか。」


手を繋いでゆっくりと十二宮の階段を下る。
その先に待つ、いつもと同じ時間。
プライベートルームの奥の奥、二人だけのベッドルームで過ごす最も甘い時間目掛けて。
目が合う度に微笑み合って、期待に高まる鼓動さえ、嬉しさでいっぱいに満たされていった。



この小さな身体全部で、貴方の大きさを感じたいの



彼は私のものだけど、私だって彼のものだ。
彼の大きな身体も、広い心も、温かな優しさも、みんなみんな大好き。
どんな時も、その大きさを失わないアルデバラン。
そんな貴方が大好きだから、私の全ては貴方だけのもの。



‐end‐





新年第一弾は牛さんのSSを。
やはり丑年なので、彼に頑張って貰いました。
バランは大好きですけど、書くとなると難しいキャラですよね。
一応、バラン大好きなこのヒロインは、彼の恋人設定でお送りしております。

2009.01.02



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