柔らかな独占欲



ふと、西日の射す窓辺に何かが足りないと思い、大きな花瓶に花でも飾ろうかなんてボンヤリと考えていたら、思わず口に出ていたらしい。


「花が欲しいな……。」


自分でも気付かぬ内に零れた言葉を、偶然、ミロが聞いていたようで。
数分後、突然、ニコニコとして私の前に現れた彼が、スッと差し出した手には、小さな白い雑草らしき花が一輪。


「はい、アミリ。これ。」
「……ミロ? 何、これ?」
「ほら、花が欲しいって、言ってただろ。」


私が欲しかったのは、こういう花ではなくて、花瓶に活けて飾るような花の束。
だが、私の呟いた一言からでは、そんな事は分からないから、彼なりに良かれと考えて、その花を摘んできたらしい。
折角の好意、無碍には出来ずに受け取ると、ミロはパァっと太陽みたいに眩しい笑顔を見せた。


いつもそうだ。
私が何となく呟いた言葉を、ミロはちゃんと聞いていて、そして、その言葉を叶えようとしてくれる。


「海が見たいな……。」
「今から海岸まで行こうか?」


「新しい帽子が欲しいかも……。」
「ほら、帽子。買ってきたぞ。」


「あれって、美味しいのかな?」
「作ってみたんだけど、どう?」


ミロの気遣いは、私の意向に合ってない事もしばしば。
でも、そんな事は関係ない。
大切なのは、ミロがそれだけ私の事を思ってアレコレとしてくれるって事。


「ね、ミロ?」
「ん、何? アミリ。」
「いつも気遣ってくれるお礼に、何かプレゼントでも贈りたいんだけど、欲しいものとかある?」


そう言われて、ミロは暫くキョトンと私を見ていた。
どうしたのだろうと、彼を見返していると、突然、いつもみたいにパッと笑って。
そして、私の肩を引き寄せた。


「見返りなんて求めてない。アミリが喜ぶ顔が見れれば、それだけで十分なんだけど?」
「でも、ミロ――。」


言い掛けた私の言葉を遮るように、ピッと人差し指を私の唇に当てて。
そして、小さくウインクを一つ。


「アミリがずっと離れずに、俺の傍にいてくれるなら、欲しいものなんて何もないさ。」
「ミロってば、物欲がないのね。」
「その代わり、独占欲は人一倍かもよ?」


目も眩みそうな太陽の笑顔を見せるミロ。
そんな彼に見惚れて固まっていた私をスッと引き寄せると、掠めるように触れるだけの軽いキスで、私の唇を奪った。



暖かな貴方の色で包み込んで、私を独占して



夕暮れの坂道を二人、手を繋いで歩いて。
私もミロが傍にいれば、欲しいものなんて何もないと思ったけど。
彼の間違った気遣いを見ているのも楽しくて。
敢えて、何も伝えない事にした。



‐end‐





ミロたんは勘違いしても可愛いキャラだと勝手に思い込んでます。
で、恋人には真っ直ぐに向かっていく感じで。
私の中では、『格好良い』より『可愛い』が強いです。

2008.08.18



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