限りあるなら



何となく花が見たくなって、双魚宮の薔薇園を訪れた。
プライベートルームのリビングにはアフロディーテ様の姿はなく、私は勝手に薔薇園の中へと足を踏み入れる。
だが、その奥まった一角に咲いていた赤い薔薇達の中に、彼はいた。
剪定鋏を手にしているところをみると、多分、薔薇を摘んでいる最中だったのだろう。
その姿は、まるで絵画のようで、思わず立ち止まった私は、ボンヤリと彼に見惚れてしまった。


なんて綺麗。
赤と緑と、そして水色と。


「……アイリス、どうかした?」


立ち尽くしていた私の視線に気付き、手を止めて立ち上がるアフロディーテ様。
その仕草も、溜息が零れる程に優雅だ。
腕には摘んだばかりの薔薇の束を抱えて、『絵になる』とは、こういう姿を言うのだろう。


「あまりに素敵でしたので、見惚れてしまいました。」
「それはそれは、ありがとう。」
「もう、アフロディーテ様ったら。お世辞じゃないですよ。本気で言っているのに。」


綺麗とか素敵とか、彼にしてみれば、そういう類の賛辞は聞き飽きているのだろうか。
その美しい顔に浮かべていた微笑を一ミリも動かす事なく、アフロディーテ様はサラリと流した。


「で……、アイリスは何をしに来たんだい?」
「あ、そうでした。あの、実は急に花が見たくなりまして……。」
「なら、私の宮はうってつけだね。」


薔薇の束を抱えたままのアフロディーテ様に誘(いざな)われ、薔薇園の中を歩き出す。
まだ蕾ばかりの一角、もう最盛期を終えた一角、今まさに美しい大輪の花を咲かせている一角……。
一口に薔薇と言っても、種類も形も色も咲く時期も様々で、ココでは色んな薔薇が一度に見れる。


「この薔薇……、今年の花はもう終わりだね。」


もう終わり近い薔薇の一角で、アフロディーテ様は花弁が萎れた、今にも散ってしまいそうな薔薇を一本、手折った。
折られた瞬間に、全ての花弁がハラハラと落ちていく様は、何とも切ない。


「何だか、切なくなってきますね。」
「そうかい? 花に限らず、植物も動物も人間だって、その命には限りがある。限りあるものが散ってしまうのは道理だろう?」


そう言って、アフロディーテ様は黄色い薔薇を、今度は見事に咲き誇っている一輪の薔薇を手折った。


「限りある命なら、ホンの少しの時間さえも、無駄にしたくはないよね。今、この時も。」


そして、手折った薔薇に優しい口付けを施す。
私には、その黄色い薔薇が、彼のキスで赤く頬を染めたように見えた。


「キミとの時間も、無駄にはしたくないな……。」


いつの間にか私の髪に触れていたアフロディーテ様の手が、極自然な仕草で前髪を掻き上げる。
そして、薔薇を赤く染めたのと同じ唇が、私の額に優しく触れた。




熱を持った頬が、薔薇のように赤く染まる




胸がドキドキするこの感覚を、恋というのなら。
私はこの瞬間、間違いなく恋に落ちた。



‐end‐





お魚さまは難しいですね……。
書く度に、何処かしら間違っているような気がしてなりません。
そして、ウチのお魚さんは、なんだかキザ過ぎです;
どうすれば素敵なお魚さまになるのでしょうか?

2008.05.16



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