指折り数えて



「何、ボーッとしているの?」


残業中の執務室。
もう直ぐ夜七時を回ろうかという壁時計の針を見つめてボンヤリとしていた私は、背後から聞こえた声にハッとして振り返った。
振り向いた先にいたのは、アテナが執務の補佐にとグラード財団から派遣してくれた女性。
彼女のお陰で、私は非常に助かっていると言って良い。


「あぁ……。アイリスこそ、どうしたんだ?」
「サガに夜食を、と思って。サンドイッチ作ってきたの。」
「ありがとう、アイリス。ちょうど何か食べたいと思っていた。」


私は彼女の手から美味しそうなサンドイッチを受け取ると、それを口に運んだ。
横の席では、アイリスが用意したお茶のセットで、紅茶を淹れてくれている。


「で、何をボーッとしていたの?」
「あぁ、さっきの話か? 次の休みはいつだったかと、思い出そうとしていたんだ。」
「サガが? サガでも休みを気にしたりするのね。」
「そりゃあ、私だって休みが待ち遠しいからな。」
「本当に? サガの恋人は仕事だと思ってた。」


皆がそう思っているのは、良く知っていた。
私は典型的ワーカホリックで、休みよりも仕事が大好きなのだと。
勘違いも甚だしいが、訂正するのも億劫で、そのままにしておいたのがいけなかったらしい。
まさかアイリスにまで、そんな風に思われていたとは……。


「私とて休めるものなら、思いっきり休みたいさ。しかし、そういう訳にもいかんのでな。」
「そういう生真面目なところが、勘違いの素なのね、きっと。サガが仕事してる姿って『仕事が大好きだー!』って言っているように見えるもの。」
「そんな風に見えていたのか……。」


アイリスの漏らした一言に、愕然とした。
もしかして、今まで次から次へと私のところに仕事が持ち込まれていたのは、私が仕事好きだと勘違いされていたからなのか?
私としては、私にしか出来そうにない仕事だから、皆が私のところへと持ってくるのだと信じて疑わなかったのだが……。


――カチャリ。


静けさの広がる部屋に、高い音を響かせてお茶のセットをデスクの端へ寄せると、アイリスは私の前に山積みになった書類を半分、持ち上げる。
そして、おもむろにそれらを広げて、仕事を開始した。


「アイリス、何を……?」
「何って。サガの仕事が少しでも早く終わるようにと思って、お手伝い。」
「いや、悪い。アイリスに手伝って貰うなど……。」
「だって、サガ。ホントはそんなに仕事好きじゃないんでしょう? それなのに、この量は辛いものね。」


ニコッと私に微笑み掛けたかと思えば、アイリスは直ぐに書類に視線を戻した。
気遣い?
優しさ?
彼女の行動に少々面食らいはしたが、折角の好意だ。
お言葉に甘えて手伝って貰うのも、悪くはない。
なにせ、その間はアイリスと二人きり、並んで仕事が出来るのだから。


再開した仕事の手を、ふと止める。
真剣に書類と格闘するアイリスの横顔を見つめながら、次の休みには必ず彼女をデートに誘おうと、そう決意した。



指を折って数える、君と過ごす休日までの日数を



私の視線に気付いてか、アイリスが顔を上げてコチラを見た。


「何? どうかした?」
「いや、何でもないさ。」
「そう?」


訝しげに顔を顰め、首を傾げたアイリスは、だが、直ぐに書類へ視線を戻す。
ハラハラと掻き上げては落ちる彼女の髪。
次の休みには、私がその髪を掻き上げて、そして――。


考えるだけで、心が弾んだ。



‐end‐





サガ様、妄想癖みたいです(滝汗)
ヒロインさんの横顔見ながら、勝手に色々妄想中。
間違ったサガ様でゴメンナサイ。

2008.05.03



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