「アフロディーテ、様……。まさか、ココで?」
「そうだよ、アイリス。」


頬に触れた指で、今度は前髪を掻き上げた。
熱い指先の感触に、またもや痺れが走り、ハッと息を呑む。
そんな私を見て、彼は冷たかった笑みを緩めて、優しい眼差しで私を見つめた。


そんな表情を見せられたら、心が揺れてしまう。
既に不安定に乱れ始めていた気持ちに、これ以上の刺激はいらない。
だけど、彼はそんな事は一切お構いなしに、その艶やかな唇で私の額にキスを落とした。


「ん……、熱い。」
「熱い? 違うよ。アイリスの肌が、冷たいのだろう?」


そのまま、休みなく沢山のキスを降らす彼。
額からこめかみ、頬、耳、顎、首筋。
そして、また上へと戻ってきて、じっくりと押し付けるように唇へ。


あまりの熱さに、身体が発光しそうな気分だった。
ハァと吐いた息が、アフロディーテ様の体内を巡り、奥底から沸き立つような熱に変化して、触れた唇から私の体内へと戻ってくる、そんな気がして。
唇を重ねたまま繰り返される呼吸の度に、私の身体は膨大な熱の塊に変わっていった。


「も……、や、だ……。」


麻痺しているのは感覚か、それとも思考か。
訳が分からず、ただ首を振った。
そんな態度をとってもどうにもならない事を、ちゃんと理解しているのに。
それだけじゃない、彼がどんな反応をするのか、それもちゃんと分かっているのに……。


「分かっているのに、拒絶するのかい? そう、そんなに――。」


それ以上、彼の声は聞こえなかった。
フッと突然、視界に黒い夜空と丸い月が舞い戻ってきて。
その青い瞳が酷く冷たい光を宿したと気付いた瞬間、私の上にいた筈の彼の姿は消えてなくなっていた。


何故、今日の月は、あんなにもクッキリと夜空に浮かんでいるのだろう。
望遠レンズで拡大して見ている訳じゃないのに、嘘のように私に迫って、今にも落ちてきそうな現実味のなさ。
もう一度、自由になった手を伸ばして、あの月に触れようとした。
でも、駄目だった。
また、この手は彼によって阻まれてしまったから。
今度は全身が粟立つような、そんな刺激を伴って。


視界から消えたと思っていた彼は、私の身体を柔らかに押し開きに掛かっていた。
スッと風が肌をなぞる感覚に、いつの間にか着ていた服が肌蹴られていたのだと知る。
自分の視界には入らないところで、彼によって何かが始められていて、そのせいで、全身に力が入っているのか、抜けているのか分からない、変な感覚に陥っていた。


「や、何? やっ……!」
「無駄だと分かってて拒絶するって事は、私を煽っていると取れるけど?」
「違っ! んっ……。」

止まらない痺れが私の身体を支配して、身を捩る事も逃れる事も出来ずに。
見えないところから与えられる巧妙なまでの刺激に、視界に浮かぶ月が滲んだ。





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