「カノンっ!」
「……何だ?」
「何よ、吃驚もしてくれないの?」
「いや、吃驚はしたが、それ以上に……。」


サガの私服のダサさに呆れ返っていた。
そう言いそうになって、口を噤(ツグ)んだ。
言ったら最後、キレた愚兄と兄弟喧嘩という名の千日戦争に突入しかねん。
場所が双児宮ならまだ良いが、流石にココはマズい。
コイツが怒り狂ったら最後、歯止めが効かんからな、海底神殿も破壊されかねない。


「それ以上に、何?」
「いや、何でもない。それより、何故、こんなところに来た? 俺は忙しいと言った筈だが。」
「アミリを責めるな、カノン。もう十日も一人ぼっちだったのだぞ。私は執務であまり自宮にはいられないし、寂しかったのだろう。あんな風に泣かれては、私とて放っておけん。」
「甘やかし過ぎだ、サガ。」


苦い顔して、そう言えば、サガは苦笑し、アミリはプッと頬を膨らませた。
鋭いサガは気付いているようだが、アミリ自身は気付いていない、俺の不機嫌の原因。
彼女の事を気遣って連れて来なかったのに、俺の気遣いを無碍にした事が一つ。
ココまで連れてきたのが、サガだという事が一つ。
サガに抱き上げられて海界に降りて来たと、想像するだけで胸糞悪い、サガなんぞに甘えやがって。


そして……。


「……照れ隠し?」
「は?!」
「照れてるんでしょ。カノンがそういうぶっきらぼうな物言いする時は、大抵、照れ隠しだって分かってる。」


図星。
そうだ、俺だって会いたくて会いたくて仕方なかった。
あんなバカ面並べたガキ共の相手ばかりしていたせいで、アミリの笑顔が恋しくなったのは言うまでもない。
あれだな、上手く事が運ばない苛立ちで、潤いと癒しが足りてないのだ、俺には。


「会いたかったんでしょ、私に。もう、素直じゃないんだから、カノンは。」
「煩い。俺は別にそんな事は一度も思ってなどいない。」
「はいはい。カノンの言葉は裏返しの意味だって分かってるから、私は気にしないわよ、全然。」
「アミリ、あまりカノンを煽るな。」


サガの苦笑は益々深まり、アミリは俺を見上げて楽しそうに笑う。
途端に、心の中に溜まってた苛立ちが、スッと消えていくような気がした。
彼女の笑顔一つで、こんなにも心が落ち着く、休まる。
こんなにもアミリを必要としていたとは、気が付いて俺は目から鱗が落ちた気分だった。
だが、そんな彼女に掛ける上手い言葉が見つからない。
何より口を開けばまた、嫌味の一つでも言いそうだ。


「安心して、カノン。貴方のお仕事の邪魔をする気はないから。カノンの元気そうな顔見たら安心した。だから、もう帰るね。」
「は? 今、来たばかりだというのに、帰るのか?」
「うん、カノンに会えたし、海界の素敵な景色も見れたし、満足満足。」


どのみち、俺とはマトモに会話にならない事を知っているからだ。
それ以上の会話を打ち切ったアミリは、おもむろに近寄ってきたと思うとスッと背伸びをして。
そんな彼女を反射的に抱き留めると、俺も彼女の背丈に合わせて身を屈める。
それは言葉で言われなくても、アミリが何をして欲しいのか、理解した瞬間だった。



足りない分はキスで伝えて



唇が離れると同時に、密着していた身体まで離そうとするアミリ。
だが、その細い手首を掴んだ俺は、再び彼女を腕の中に閉じ込めた。


「待て、アミリ。」
「ん、何?」
「あと三分だ。」


あと三分、それはキスを交わすには長過ぎる時間。
ただでさえ息苦しいこの海の下の世界、俺達は互いの呼吸まで吸収し合う勢いで、熱烈なキスを繰り返す。


「ゴホッ、ゴホンッ!」


わざとらしいサガの咳払いなど軽く無視だ。
俺達は今、この唇と唇で、離れていた十日の間に積もりに積もった想いを伝え合っているところなのだからな。
年甲斐もなく赤面するサガなど、そこで待たせておけば良いさ。



‐end‐





何だかサガだけでなく、カノンまでワーカホリックな人になってしまいました。
誕生日記念なのに、二人共、仕事でグッタリ(苦笑)
サガが働き過ぎなのは誰もが認めるところですが、意外にもカノンも結構お仕事に追われている人なんじゃないかと勝手に妄想。
ほら、海界って平均年齢低いんで、皆が皆、カノンにおんぶに抱っこ状態で頼り捲くってたら良いなぁ、なんて^^

とりあえず、テーマを『バカップル的なキス』としたので、サガはカノンに、カノンはサガに見せ付けるようなシチュでのキスシーンを作り上げてみました。
カノンがツンデレっぽく見えるのは仕様です(ェ;)

ではでは、カノンもおめでとう!
Happy Birthday!

2010.05.30



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