洗濯日和



午後の修練を終えて双児宮に戻ると、額に汗の粒を浮かべたアミリが、せっせとアイロン掛けをしているところだった。
傍らにはカラカラに乾いた洗濯物の山。
その殆どが、シャツやズボン、それと聖衣の際に纏うマント。


「随分な量だな、アミリ。」
「っ?!」


声を掛けると、ビクリと身体を強張らせて顔を上げるアミリ。
それまで一心不乱にアイロンと格闘していたのだろう、俺が戻った事に気付いていなかったようだ。
彼女は一瞬だけ驚いて目を見開いた後、直ぐに頬を可愛らしく膨らませた。


「洗濯物の量が多いのは、誰のせいだと思っているんです?」
「それは仕方ない。むさ苦しい男が二人も住んでいるんだ。洗濯物だって、それだけの量になる。」
「サガ様の洗濯物は、カノン様の半分以下ですけど?」


今度はジト目で俺を見上げる彼女。
アミリが恨みっぽくなるのも、まぁ、分かる。
この宮の女官は、他の宮の二倍の仕事をこなさなければならないのだ。
サガの他に、俺がこうして居座っているのだからな。
そう考えれば、少しは負担を減らしてやりたいとも思うが、如何せん、こればかりはどうしようもない。


「それも仕方ない。サガは滅多に教皇宮から戻ってこない。不潔な事だが、着替えは良くて二日に一回だ。まぁ、執務尽くしで、汗も殆ど掻かんのだから、気にならんのかもしれんがな。だが、俺は毎日トレーニングを欠かさない。一日に数回の着替えは当然に必要になる。」
「それは、そうですけど……。」


それにサガの無駄に金の掛かった法衣は、シルク素材の繊細なものだからとかいって、教皇宮で別にクリーニングに出している。
つまりは、余計にココで出す洗濯物の量は減る。
しかも、アイツは法衣の下はマッパだからな。
洗濯物が出るとしても、靴下くらいのものだろう。


「え、そうなのですか? どおりでサガ様の洗濯物が異常に少ないと思いました。」
「冗談だ、アミリ。本気にするな。」
「あ、冗談ですか……。」


それでも腑に落ちないらしく、アミリは首を傾げた。
アイロンのスイッチを切り、傍にあったサガのシャツを広げて、繁々と眺める始末だ。
俺は小さく溜息を吐くと、彼女の頭をポンと小さく叩いた。


「忙し過ぎて、着替えも儘ならんのだろう。それに、実は近くに、洗濯をしてくれる女がいるのかもしれんぞ。」
「教皇宮の女官さん?」
「かもしれん。ああいう仕事に没頭する男には、傍にせっせと世話を焼く女が付いているものだ。」


鈍いアイツが、相手の女心に気付いているのかどうかは分からんが。
下手をしたら、アレコレと気遣いされ慣れているせいで、世話されている事が当然のように思っている可能性だってある。


「ま、兎に角だ。サガはココへは余り戻ってこない。他に世話をしてくれる者がいる。アミリの手を煩わす事もない。となれば、お前は俺の面倒だけ全力で見ていれば良いという訳だな。」
「はぁ……。」
「何だ、その気の抜けた返事は? ボケッとするな。お前もサガに負けず劣らず鈍いんだな、アミリ。」


キョトンとしているアミリの手からサガのシャツを奪い、洗濯物の山の上に放り投げると、再び彼女の頭をポンと叩いた。
今度は先程よりも少し強めに、そこに仄かに愛情を籠めて。


「お前はサガの事など二の次にして、俺のためだけに尽くせ。俺が満足する飯を作って、俺が居心地良く過ごせるように掃除して、俺の服を綺麗に洗濯して、な。」
「何だか……、亭主関白みたいですけれど。」
「それの何が悪い。宮主のために身を粉にして働くのが女官だろう。」


ここで一気に押し切ってしまうのも悪くないが、鈍いアミリをジワジワと追い詰めていくのも悪くない。
少しずつ少しずつ、俺という人間の魅力を分からせてやるか。
アミリが落ちるのが、一体いつになるのか。
それを考えながら過ごす日々も楽しいだろうと、口元に薄く笑みを浮かべながら考えていた。



俺の洗濯物は全てお前に任せたぞ



(な、何ですか、その嫌らしい笑みは?)
(ん? 次の狩りを、どう進めようかと考えていてな。)
(へぇ。カノン様、狩りをされるんですね。)
(フッ、まぁな。)



‐end‐





そんな訳で、珍しく聖域側にいるノンたんを書いてみました。
私的には、海龍として自分の殻に閉じ籠もりがちな孤高で硬派なノンたんの方が好みで、そういう彼ばかりを多めに書いてきましたが、たまには軟派で兄に対する対抗心丸出しな彼も面白いかなと思ってw
でも、そういうノンたんを目指すと、どうしても蟹様っぽくなる不思議w

2015.05.31



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