GATE18



電車の窓から眺める都会の景色は、目映い光に溢れていた。
暗い夜を飾る光の海が、視界の中を次々と流れていく様が、潤む瞳から心の奥へと入り込んで、深々と突き刺さってくる。
こんな苦しい胸の痛みは、もう欲しくないの。
胸の内に巣食うわだかまりも、どうしようも出来ない後悔も、全てをこの夜の街へと、光の海の中へと捨て去るために、私は今、あの場所へと向かっているのだ。
そんな事をぼんやりと考えている間に、車窓に滲んだ光の帯がプツリと途切れ、程なくして速度を緩めた電車は、目的の場所へと滑らかに停車した。



***



彼と喧嘩をしたのは五日前の事。
扉は閉め切っていたとはいえ、静かな夜の城戸邸では、私の高い喚き声は屋敷の隅々にまで響き渡っただろう。
そうと分かっていながらも、ヒステリックな大声を抑えられなかったのは、私にも我慢の限界というものがあったから。


「カミュ様なんて大嫌いです! 嫌いです! 嫌いよ!」
「落ち着け、アイリス。」
「落ち着いてなどいられません!」


これで何度目になるか分からない。
だけど、今度こそは、共に連れて行ってくださるものだと信じ込んでいた私に、カミュ様はキッパリと「駄目だ。」と言い放った。
いつものように冷静に、感情すら籠められていない声色で。


「……所詮はメイド。私との事など本気ではなかったのですね。」
「馬鹿を言うな。そのような事は決してない。私が遊びで女性に手を出すような男ではない事、アイリスも良く分かっているだろう?」
「では、どうして……?」


彼のたった一言が、私の胸を押し潰し、凍て付く氷点下の世界へと追い遣った。
それはあまりにも苦しく、あまりにも冷たかった。
この胸の痛みに見合うだけの納得出来る答えが欲しい。
従順なメイドとしてではなく、一人の女として、カミュ様の傍に寄り添う未来。
その願いを叶える最後のチャンス、それが今日だと思っていた。
だからこそ、彼の言葉から受けたショックは大きかった。


カミュ様と交際を始めて三年。
黄金聖闘士と城戸家のメイド、共に過ごせる時間は極めて少なかった。
彼は率先して日本での任務や、お嬢様の護衛を引き受けて、城戸邸での滞在機会を増やそうと努力をしていたけれど、それでも日本で過ごせる時間には限りがある。


そんな中で日増しに募っていく想い。
少しでも長くカミュ様と居たい。
私は聖域でもシベリアでも構わない、彼の生活する場所への移住を願った。
だけど、カミュ様が首を縦に振る事はなかった。
これといった理由も告げず、ただ常に「ノー。」と冷たく言い放つばかりで。


「理由を……、教えてください。」
「……分かってくれ、アイリス。」
「分かりません! 分かりません、私には……。」
「アイリス……。」


結局、カミュ様の口からは何の答えも得られないまま。
彼は翌日、お嬢様の護衛として、北海道へと旅立ってしまった。





- 1/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -