遅過ぎる告白は唯の一つもない



「キミを抱きたいんだ、アイリス。」


そう告げた瞬間の彼女の表情。
まるで絵に描いたように、驚きがそのまま顔に出ていたものだから、正直、私は噴き出しそうになってしまった。
上限ギリギリまで見開いた目からは、ポロリと眼球が落ちてしまうのではないかと心配になる程。
口は文字通りポカンと開き、あれでは顎が外れて戻らなくなるぞと、余計な危惧をもしたくなる始末。


「どうして、そんなに驚いているんだい? 私が何か驚くような事を言ったかな?」
「い、言いました! 言いましたよ! 言ったじゃないですか、今!」
「アイリスを抱きたいと言った事?」


別に驚くような言葉ではない。
と、私は思っている。
これまで何年も傍にいた。
アイリスは、この双魚宮で私のために働き、尽くしてくれていたのだ。
あの闘いで命を落とした私を、変わらずに待ち続けてくれた。
そして、再び命を取り戻した今も、以前と何ら変わらず、また私のために尽くしてくれている。


そんなアイリスを、愛しいと思わない訳がないだろう。
ずっとずっと抑え込んできた想いだ。
成就しない事など有り得ない、そう思い込んで切り出した提案。
まさか、こうまで驚かれるとは思ってもみなかった。


「ずっと大切に抱えていた想いだ。そんなに驚かれて、少し傷付いたよ。」
「ご、ごめんなさい、アフロディーテ様……。」
「驚く程、どうでも良い存在だったのかな? アイリスにとって私の事など。」
「ち、違います! ただ、夢のようで……。」


ポツリポツリ、小さな声で紡がれていく言葉の、何と一生懸命な事か。
俯いたアイリスの赤く染まる顔に、胸がキュンと甘く鳴り出す。


夢を見たという。
私が命を落としてからの日々に、夜な夜な、何度も。
颯爽と双魚宮の薔薇園の中を歩いてきた私が、彼女に向かって告げる言葉の数々。
共に行こう。
私のものになってくれ。
一生、離さない。
アイリスの手を取り、幾千もの言葉で愛を囁いたのだと。


「だから、また夢の続きを見てしまったのかと……。あまりに貴方を想い過ぎて、夢と現実の境目を見失ってしまったのではと、一瞬、怖くなって……。」
「そう。そうだったのか……。」


アイリスを置いて死んでしまったのは、私の一生の不覚だ。
あの時の驕り高ぶった私では、自分が死ぬ事など微塵も考えてはいなかった。
勿論、後に残されるだろう者の気持ちなど、何一つ考慮してはいなかった。
一人残されたアイリス。
夢の中で私と逢った彼女は、どれだけの苦痛を伴って夢から目覚めていたのか。
現実を知って、何度、胸を引き裂かれた事か。


「夢ではない、現実だよ、これは。私は、ココで待っていてくれたキミの心に導かれ、またこの世に舞い戻ってこれたんだ。だから、今はもっと、この現実を強く感じたい。確かめたい、キミの……、アイリスの全てを。」
「アフロディーテ様……。」


キラリ、アイリスの瞳に浮かんだ涙には気付かない振りをした。
今は涙などいらないのだ。
必要なのは、彼女の体温、生きている証。
そっと口付けて、アイリスの細い身体を抱き上げる。
ベッドまでの短い距離が、まるで悠久の時を刻むかのように長く、遠く感じられた。



溜息の長さまでも分かち合って



これからは、ずっと傍に。
抱き締めて離れずにいよう。
キミのために、この命はある。



‐end‐





お魚さま、お誕生日おめでとう御座います!
なのに、切甘夢とか書いてしまう私をお許しください(汗)
いえ、最近は甘いのばかり書いているなと思っていたら、お魚さまが切甘が似合うもので、つい(言い訳)
切ない話、悲恋・失恋すらも似合うなんて、美しいって罪ですw

2014.03.10



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -