黄金色の雫



パタンとドアの閉まる音がして、私は慌ててキッチンを飛び出した。
だけど、リビングにいたのは予想外の人で、私の足はピタリと止まった。


「あれ、アイオリア? 今、部屋に入ってきたのって、貴方だったの?」


てっきり誰か訪ねて来たものだとばかり思って、慌ててお鍋の火を止めてきたのに。
頬を心持ち膨らませて、そう告げると、アイオリアは苦い笑みを浮かべて、汗に湿った髪を掻き毟った。


「すまん、アリナー。ちょっと汗を掻きたくなってな。走りに行ってたんだ。」
「私に黙って?」
「だから、すまんと謝っている。」


彼はこの午後、明日までに提出しなければならない報告書と格闘するため、奥の部屋に籠もっていた筈。
大方、途中で煮詰まってモヤモヤした挙句、結局は、それを払拭するのに身体を動かしたくなったのだろう。
アイオリアらしいと言えば、そうだけれども、私に何も言わずにコッソリ出て行った事に対しては、ちょっとだけ腹立たしさを覚える。


「だが、アリナーに告げたら、行くのを止めるだろ? まだ書類が出来てないのにって。」
「まぁ、そうかもしれないけれど……。」
「ホンの十五分程度だ。走ってきたらスッキリしたし、これで少しは報告書もはかどるだろう。」


だと良いんだけど。
私は呆れ半分の息を吐いて、楽観的に笑う彼を見上げた。
一体、どれだけ走ってきたのか。
額からは汗が流れ落ち、身に着けているものも含め、頭の上から全身が汗にジットリと濡れている彼は、いつものアイオリアそのものだった。
汗と埃に汚れた、何処までも男臭い闘士の姿。


「ん? どうした、アリナー?」
「…………。」


なのに不思議。
この時、私の目が捉えた彼の姿――、夕方の朱色に染まったアイオリアの立ち姿が、妙に男っぽく映ったのだ。
『男臭い』のではなく、『男っぽい』もしくは『男らしい』姿に。


それは夕陽に染まって黄金色に輝く汗の粒が髪や表情を飾り、汗を含んだ衣服が逞しい身体にピッタリと張り付いているせいで、そう見えてしまったのかもしれない。
でも、窓の外の遠い景色を何気なく見遣りながら、無意識に金茶の髪を掻き上げる仕草に纏わり付くのは、男性特有の艶。
そして、鼻孔を擽るアイオリアの汗の匂いが、強い『男性』の存在感を高らかに私へと突き付けてきて、刹那、激しい目眩を覚えた。


「アリナー……、アリナー?」
「あ……、り、リア。」
「どうした、アリナー? 目が虚ろだ。具合でも悪くなったか?」
「ね。これ……、脱いで。」
「は?」


戸惑い、目を見開くアイオリアを余所に、私は彼の着ていたシャツを胸元まで一気に捲り上げた。
慌てて私を押し遣ろうとする腕を滑り抜け、その身体に抱き付く。
ギュッと腰に腕を回して、胸に強く顔を埋めて。
ベトベトした汗の感触も、その強い匂いも気にならなかった。
寧ろ、それを深く欲して、より強く彼の身体に抱き付く。
触れる肌が熱を持ち、それがウットリするくらい心地良い。


「汚いぞ、アリナー。汗塗れだし、その……、匂うだろ?」
「うぅん、それが良いの。」


アイオリアの逞しい身体に触れて、そして、その匂いにゾクゾクしてる自分がいるなんて。
私、どうしちゃったんだろ。
でも、どうしても我慢出来ないの。


「離してくれ、アリナー。シャワー浴びてくるから。汗を流したい。」
「駄目よ、いや。」
「なら、お前ごとシャワー室に行くぞ。」


そうなれば、どうなるかくらいは分かるだろう?
耳元に囁かれ、身体がビクリと跳ね上がった。
彼の奥で目覚めてしまった『雄』の本能が、私の中の『雌』の本能を更に揺り動かせば、後はもう、突き進むしかない。


答えの代わりに、アイオリアのボトムスに手を掛け、フックを外し、ファスナーを下ろす。
そのまま中へと差し入れようとした手は、だが、彼の強引な手によって阻まれて。
瞬時に抱き上げられる、声を上げる隙もなく。
力強く歩きながら交わすキスは噛み付くみたいに獰猛で、全身が蕩けてしまいそうだ。


これから向かう先は、熱いお湯の雨と煙の中。
熱に浮かされた男女の、獣みたいな睦言ばかり。



私の欲に触れて、貴方の欲は止め処なく



ごめんね、アイオリア。
こんな事してたら、あの報告書、明日の期限には間に合わなくなっちゃうかも……。



‐end‐





痴女が降臨しましたwww
たまにはリアを襲ってしまうのもアリなんじゃないかと。
でも、こんなに突然、痴女に変身したら、リアも吃驚だと思いますw
これも全てリアの男臭いムラムラむんむんフェロモンのせいだと言い張ります^v^

2012.08.25



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -