おかえりなさい



――ザアァァァ……。


まだ陽の沈みきらない夕方。
熱いシャワーの雨を浴びながら、昼間の暑さで大量に掻いた汗を流していた私は、ぼんやりとアイオリアの事を考えていた。


アイオリアが海外任務に赴いて、今日で三日目。
こうして泊り掛けの任務に就くのは、私がこの獅子宮で彼と共に暮らすようになってからは、初めての事だった。


「特に危険な仕事ではない。心配するな。」


アイオリアは出発前に、そう言って出て行ったけど。
それでも、大丈夫なのかしらと不安になってしまうのは、どうしようもないもので。
いつ任務が終わって帰ってくるのか、それすら分からないものだから、余計にその気持ちが膨らんでいく。


「早く帰ってきて、アイオリア。」


時間が経てば経つ程に、日増しに募ってくる不安。
小さく呟いた声がシャワーの音に掻き消され、それが悪戯に心を締め付けた。


アイオリアは聖闘士。
それも彼らの中でも頂点の地位にある黄金聖闘士。
自らの命を懸けて戦い、この世界の平和を守るのが彼の使命。
それは私だって、ちゃんと分かっている。
だから、大きな怪我を負う事も、時には命を落とす事だってあると理解した上で、彼の傍にいると決めた。


それでも――。


愛する人には無事でいて欲しい。
そう思ってしまうのは、やはり恋する女の性(サガ)だろう。
もしアイオリアが命を落として、私の傍からいなくなるくらいなら、世界が滅んだ方が良いだなんて。
そんな事を考えた事があると彼に知れたら、私の事など嫌いになるだろうか?


――カタンッ……。


浴室の床に打ち付けるシャワーの音に混じり、遠くから微かに扉の開く音が聞こえた気がした。
このプライベートルームの鍵は、ちゃんと閉めてある。
それを開けて入ってこれるのは、唯一人……。


アイオリアだわ!


私はビショビショに濡れたままの身体を、手近にあったバスタオルで包むと、恥も外聞もなくプライベートルームの入口まで走っていった。
私の通った後にポタポタと雫が落ちて、水滴の道標を作る。
アイオリアを吃驚させちゃうかもとは思ったけど、それよりも逢いたいと思う気持ちの方が強かったから、裸足のままでペタペタと音を鳴らして駆けていった。





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