前途多難な恋人生活



――ギシィッ!


ベッドが大きな悲鳴を上げた音で目が覚めた。
あぁ、またか。
そう思いながら、小さく首を回して背後のアイオリアの様子を見やる。
グッスリと眠っている彼は、そんな音など気にならないのか、目を覚ます気配もない。
仕方なく私は、腰をギュッと抱く彼の腕に手を重ねて、再び目を閉じたのだが……。


――ギシィッ!


また同じように軋んだベッドの音で、夢の世界に落ち掛けていた意識を引き戻された。
時計を見れば、先程、目が覚めた時刻から、まだ一時間も経っていない。
はぁ……。
暗闇の中に響く小さな溜息。
半ば諦め気味に背後のアイオリアを振り返ると、やはり彼は変わらずスヤスヤと眠り続けていた。


あまりに平和な寝顔に、ちょっとだけ腹が立つ。
気持ち良さそうに眠りこけちゃって、鼻でも摘んでやろうかしら?
そんな悪戯心が湧いてもきたが、流石にそれは思い留まった。


だってアイオリアは体力が有り余ってるんだもの。
目を覚ましたら最後、また激しく求めてくる可能性が高い。
そんな事になれば、彼は良いとしても、私は体力的に絶対に無理。
明日一日、ほぼ使いものにならない状態になるだろう。
それくらいアイオリアの愛情表現は深く濃厚なのだ。


――ギシィッ!


まるで、それが返事でもあるかのように良いタイミングで鳴るベッドの軋み音。
もう一度、今度は比較的大きめの溜息を吐くと、夢の世界に落ちるための努力を始めた。
ベッドの軋みを気にせずにいられるくらい深い睡眠に入れるよう祈りながら。



***



「おはよう、アリナー。どうした? 目が赤いが寝不足か?」
「そうね、寝不足と言えば寝不足よ。昨夜は羊を一万匹以上数えたわ。」


翌朝。
私の顔を見たアイオリアによる開口一番の言葉。
気遣いの余り上手ではない彼ですら、私の顔に浮かぶ疲労の色には気付いたようで、心配そうに眉毛を下げて顔を覗き込んできた。
結局、昨夜はベッドが軋む度に目を覚まし、ちゃんと眠れた気が殆どしない。


「だから獅子宮に住もうと、何度も言っているだろ。そうすれば、もっと一緒にいられるし、何より俺のベッドはコレよりずっと広い。そして、軋みもしない。アリナーもグッスリ眠れるだろう。」
「確かにそうだけど……。」


今、私が一人で暮らしているこの家は、半年前に伯父さん夫婦から譲り受けたものだ。
聖域内に幾つかある一般人居住区の中でも十二宮から一番近く、仕事に向かうにもそこそこ便利な場所。
何より伯父さん達が大事に住んできただけあって、とても居心地良く整えられている。
ベッドにしたってセミダブルで、アイオリアと一緒だと少し窮屈に感じるけど、我慢出来ないという程の狭さではないし、寝心地だって悪くない。


「でも、アイオリアが寝ると、身動ぎするだけで凄い軋むのよね。私一人だと、どれだけ動いても何ともないのに。」
「それは体重の違いだ、仕方ない。大体、アリナーはどうして獅子宮に住むのを嫌がるんだ?」


だって、何だか恥ずかしい、周りの人の目に触れるのが。
アイオリアと同棲してる、つまりは獅子宮の中で二人、色々な事を致してるんだと、周囲の人達に公言してるようなものだから。


「絶対にからかわれるもの。ミロ様とか、あと、一つ下の宮のあの人、絶対にニヤニヤ笑って何か言ってくるに決まってるわ。」
「デスマスクは大人だからそんな事は言わん。ミロは……、怪しいがな。」


それを聞いて、昨夜と同じだけ大きな溜息を吐く私。
やっぱり何度考えても、私はこの家を離れたくはない。
アイオリアと一緒の時間は取り辛いし、ベッドの軋みは煩いし、散々な事ばかりだけれど、私には黄金聖闘士様達の好奇の目に晒されてまで彼との生活を選ぶ勇気が、まだ湧かなかった。



どんなちっぽけな事でも、恋の障害には成り得るもの



「だったら、アリナー。次回の泊まりの時は、睡眠薬でも飲んだら良いんじゃないのか?」
「そんなモノを飲んだら、アイオリアの一番のお楽しみがお預けになっちゃうわよ。良いの?」
「いや、それは困るな。」



‐end‐





何気ない日常に潜む苦労話なんかどうだろうと思い、書いてみました(苦笑)
これがロス兄さんだと強制的に人馬宮で同棲になりますが、リアは優しい(押しが弱い)ので、彼女の気持ちを最優先するんじゃないかと。(夜の生活は強引ですがw)
しかし、リアでベッドの軋み話は二本目ですねw
あの筋肉マッチョな身体が横に寝ていると妄想すると、それだけでご飯何杯でもいけそうですw

2012.05.20



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