千載一遇の大チャンス?



「おかえりなさいませ、アイオリア様!」


二日掛かりの面倒な任務を終え、重い足を引き摺るようにして帰った自分の守護宮。
宮の中には、どうせ誰もいやしない、ムサい男の一人所帯。
この二日間、窓を閉め切ったままの部屋は、きっと空気も悪いだろうと、陰鬱な気持ちで部屋の扉を開けた瞬間の出来事だった。


「おかえりなさいませ、アイオリア様ッ!」
「っ?!」


これは夢か、幻か?
密かに思い続けている愛しいアリナーが目をキラキラと輝かせて、俺の部屋の中で待っているとは。


にっこり笑顔で掛けられる「おかえりなさい。」の、たった一言。
それだけで、重かった身体が嘘のように軽くなる。
相変わらずの乱雑な部屋、散らかったままのトレーニング器具。
ココは確かに俺の部屋だが、まるで違う世界に迷い込んだような気分だ。


もしや、これは女神からの特別な配慮か?
いつもキツい任務や執務・後輩指南を引き受けている、そのご褒美にと、俺が想いを寄せるアリナーを、こうして遣わしてくれたとか。
ならば、このアイオリア。
女神の期待に応えるべく、ここでアリナーの心をシッカリと掴まなければ――。


「アイオリア様、これを。」
「……ん?」
「アイオリア様のサインが必要な書類です。ココとココにサインをして下さいね。直ぐに持って行きますから。」


無邪気な笑顔で伝えられたアリナーの一言に、心の中で勝手に盛り上がっていた期待は、見事にあっさりと打ち砕かれた。
あぁ、そうか、そうだよな。
有り得ない夢を、一瞬でも見た俺がバカだったよ。
俺だけ特別なんて、女神がそのようなえこ贔屓をする筈もない。
大体、俺達黄金聖闘士は皆、平等だ。


ドアを開ければ、そこで愛しい彼女が俺の帰宅を出迎えてくれる。
そんな安っぽい小説みたいな事、その辺にゴロゴロ転がっている筈もなかった。
幸せは待っていても来やしない、その辺から降ってくる事を期待しているようでは駄目だ。
男なら、自分の幸運は自分から掴まなければな。


「アリナー。この書類、そんなに急ぎなのか?」
「ええ。だから、わざわざ獅子宮まで来て、アイオリア様のご帰宅を待っていたんです。」
「そうか……。ならば、俺が教皇宮まで持って行ってやろうか? 俺の足なら、往復でも数分だ。」
「でも、申し訳ないです。アイオリア様、お疲れなのに……。」


今はもう夕刻。
これを届けたら、今日のアリナーの仕事は終わりだろう。
ならば、後の時間を俺が貰ってしまえば良い。
折角、彼女と二人だけで話せる今。
邪魔者もいないし、見咎められる事もない、多少なりとも強引に誘える絶好の機会だ。


「ココで待っててくれれば、直ぐに戻ってくる。そしたら、一緒に夕飯でもどうだ、アリナー?」
「え? で、でも……。」
「俺じゃ、夕飯を一緒にする相手としては不足か?」
「め、滅相も御座いません!」
「ならば、決まりだな。」


さて、約束は取り付けたし、時間もたっぷりとある。
後は、どうやってアリナーを落とすか。
夕飯までの間に考えておかなければいけないな。



このチャンス、絶対に逃しはしない



鈍いアリナーが相手だ。
回りくどいやり方では一向に気付いてもらえないだろう、俺の気持ちは。
やはりココは自分らしく、ストレートに押しの一手でいくしかないか……。


今夜の終わり、一体どんな結末になるのか、非常に楽しみだな。



‐end‐





他ではあまり見られない積極的なニャー君はどうだろうかと、試しに書いてみた一作。
ど、どうなんでしょうね?
激しく似非アイオリアな感じが否めない;
これはもう『アイオリア』ではなく『アイオリーア』という、別の生き物に違いないです(苦笑)
全然、リアらしい話が書けてないわorz

2009.08.13



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