甘過ぎる夜を



クリスマスだからと張り切って作った豪華なディナーが、アイオリアと私、二人の胃袋の中にすっかり納まった後。
部屋の照明を落としてキャンドルを灯し、二人掛けのソファーへ腰を下ろしたアイオリア。
そして、キッチンから戻った私は『ある物』を手に、少し遅れて彼の横に落ち着いた。


「どっちが良い?」
「ん〜、そうだな。バニラにするか。」
「え、意外。アイオリアは絶対、メープルシロップ味にすると思った。」
「それも好きだが、これがあるからな。」


私の手からバニラアイスのカップを受け取ると、アイオリアはキャンドルの横に置いてあったボトルを指差す。
薄闇の中、目を凝らして見れば、それは蜂蜜のボトルだった。


「アイオリア、まさかそれをバニラアイスに掛けるの?」
「勿論、そうだが?」


それがどうした? とでも言いたげに、当たり前な口調で言い放つ彼。
冬でも冷凍庫にアイスクリームのストックを欠かさない甘党のアイオリアだが、こうまで甘党なのかと、一瞬、呆れ返ってしまった。


だが、そんな私の様子には気付きもせず、アイスを持った手とは逆の空いている腕を、スッと伸ばす彼。
グイッと私の腰を引き寄せた後、その手で用意していた大き目のブランケットを肩に回して、そのまま抱き寄せてくる。
ブランケットの下、密着する身体が温かい。
大きくて逞しくて、全身で包んでくれる、その包容力。
キャンドルの光だけが灯る薄暗闇の中、アイオリアの体温はいつもよりもずっと温かく感じられた。


「すまない、アリナー。手が塞がった。」
「だったら、離せば?」
「それは嫌だな。」


アイオリアは、あくまで私の肩に回した腕は離さないらしい。
仕方ないなぁと小さく零しつつ、私はバニラアイスの蓋を開け、それにたっぷりと蜂蜜を掛けた。
キャンドルの黄色い光の中、琥珀色に輝く蜂蜜がとても綺麗だ。
キラキラと光が乱反射して、ロマンティックに女心を擽る。


「はい、アイオリア。」
「ん?」
「あ〜ん、して。」
「それ、は……。」
「嫌なの? 別に照れる必要ないわよ。誰も見てないし。」
「……そ、そうか?」


大人しく口を開けたアイオリアに、スプーンに山盛り掬ったアイスを差し出す。
それが口の中へと消えた後、私は彼の口の端に付いたクリームをペロリと舐め上げた。
思わぬ私の行動に、きょとんとして見つめるアイオリアが何だか可愛い。
だが、その言葉は次の瞬間に、お返しと言わんばかりの濃厚なキスを施され、あっさりと撤回させられるのだが。


「そう言えば……。」
「ん?」
「冷凍庫の中に、もう一個、アイスがあったな。」
「あぁ。あれはアイオロスのチョコアイス。」
「兄さんの?」


甘党なのはアイオリアだけでなく、彼の兄も同様。
アイオリアは蜂蜜、アイオロスの方はチョコレート好きと、好みは分かれているけれど。
私は自分のアイスをひと掬い口の中に放り込むと、もう一度、アイオリアの蜂蜜の掛かったアイスを彼の口の中へ押し込んだ。
既に抵抗などなくなっているのか、スプーンが近付くと機械的に唇を開く彼が、ちょっとだけおかしい。


「後から絶対、アイオロスに言われるもの。『俺も食べたかった。』って。」
「だが、兄さんのは必要ないだろ。兄さんは兄さんで、今日は楽しくやってるんだろうから。」
「クリスマスだから?」
「そうだ。クリスマスだから、今日は俺とアリナーの二人分だけで十分だ。」


何を思ったのか、アイオリアは急に回していた手を離すと、私の手から自分のアイスを奪い、一気に食べ出した。
その姿をポカンと見ている私の前で、今度は私のメープルアイスも取り上げて、綺麗に平らげてしまう。


「ご馳走様!」
「あ……。」


空になったアイスのカップを呆然と見下ろす私。
だが、直ぐにそれも出来なくなった。
力強く私の身体を抱き締めたアイオリアによって、柔らかなソファーの上へと押し倒されてしまったから。



それは甘過ぎる夜の始まりの合図



キャンドルライトに照らされた彼の蜂蜜色した髪が、見上げる視界に映る。
凄く綺麗だとボンヤリ思っていた意識は、あっと言う間に、彼の濃厚なキスと愛撫によって奪われた。
愛しいアイオリアの唇は、蜂蜜とバニラアイスとメープルシロップの入り混じった味がした。



‐end‐





リアと『甘過ぎるくらいの聖夜』をテーマに書いてみました。
兄さんにちょっぴり嫉妬なニャー君、可愛いv
ちなみに、我が家のリアはアイス好き設定です^^

2008.12.22



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