夜間飛行



暗い夜道を一人、歩いていた。
誰もいなくて静かで、そして、空気が澄み渡っていた。


月は見えない。
星も見えない。
見上げた夜空は曇っているようには見えなかったけれど。
星さえも見えないという事は、やはり雲が掛かっているのだろう。


でも、そんな事はどうでも良かった。
私は、ただ歩きたいのだ。
夜の中を、ただずっと。


「誰だ?! 何をしている?!」
「ひゃっ!!」


突然、背後から響いた怒声に、私はマヌケな悲鳴を上げた。
恐る恐る振り返ると、暗闇の中に仁王立ちしている体格の良い男性が一人。


「あ、アイオリアか……。吃驚した。」
「何だ、アリナーか。こんな夜更けに、こんなところで何をしている?」
「ん? 散歩だけど。」


返事を返すと同時に、闇にくすんだブロンドが揺れたかと思うと、暗闇の中でも光を失わないエメラルド色の瞳がカッと見開かれる。
その眼光の強さにビクッとした私は、思わず少しだけ後退りをしてしまった。


「何を考えている?! こんな時間、こんな真っ暗な場所を一人で散歩などと!」
「や、だって……。何となく歩きたかったんだもん。」
「だからと言って、こんな人気のない森の近くをか?!」


その迫力に怯む私の様子などお構いなく、アイオリアは怒りに満ちた表情で説教を続けようとする。
私は黙って小さく竦んでいるしかなかった。


「全く……。仕方がないな。俺が送って行ってやる。」
「……え?」
「一人で戻るのは危ない。飢えた雑兵共にでも襲われたら、どうするつもりだったんだ?」
「それは……。」


俯いてしまった私の頭を、アイオリアの大きな手がポンポンと叩いた。
そして、その手はクシャクシャに髪を撫でてから離れ、その一瞬後に頬に触れて、私は驚いて顔を上げる。
私の視線に合わせて屈んだアイオリアと目が合い、その瞳の真っ直ぐさに貫かれて、心臓が高い音を立てた。


「帰るぞ、アリナー。」
「……はい。」


そんな瞳で見つめられたら、逆らう事なんて出来ない。
少しだけ躊躇った返事の後で、私は大人しく差し出されたアイオリアの手を握った。
そして、手と手が触れ合った、その瞬間。
突然に気が付いた。


「あ。」
「ん? どうした?」
「あ、いや、何も……。」


暗い夜の中、一人で歩きたくなったのは、人恋しかったからだ。
気付かぬ内に寂しさを埋めたくて、飛び出していた。
夜に羽ばたけば、きっと彼が来てくれるような気がして。


「……アイオリア。」
「ん?」
「一人は……、寂しいの。」
「そうか、分かった。」


より強く握られた手の温もりに、期待感が急速に高まる。
この深い夜の中で、全身で彼を感じたいと思った。



貴方と繋いだ手、午前二時の夜間飛行



「アイオリアは何で、こんな時間に?」
「そうだな……。何となく、アリナーに逢えるような気がして。」
「ふふっ、一緒だ。」
「そうだな。」



‐end‐





突発的にリア降臨。
無性にリアが書きたくなって思わず書きました。
しかし、リアが胡散臭い事この上ないですね;

2008.10.11



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