優しい拒絶



黒、グレー、青……。
色とりどり、カラフルに並ぶ『ソレ』を手に取って思案する私。
う〜ん、どれもしっくりこない気がするのよね。


「ねぇ、アイオロス! ちょっと来て!」
「ん? 何だい、アナベル?」


久し振りの休日。
ショッピングの途中で立ち寄った手芸店の一角で、キラキラと輝くビーズを物珍しそうに眺めていたアイオロス。
だが、私が彼を呼ぶと、いつもの笑顔を浮かべて、すぐさま駆け寄ってきてくれた。


「この色は……、似合わないわよね。じゃ、こっちは……。」
「??」


手に持っていた色とりどりの『ソレ』をアイオロスの身体に当てて、見比べてみる私。
うん、やっぱりこの色よね。
アイオロスは『赤』が一番良く似合う。
あまり派手にならない、このシックな落ち着いた赤にしよう。
年齢的にも、きっとこれが一番良い。


「……アナベル。」
「ん? 何?」
「もしやとは思うが、まさかセーターでも編むつもり?」
「正解、大正解! もう直ぐアイオロスの誕生日だから、ね。張り切って編んでみようかなぁ、なんて。」
「編み物、出来たっけ?」
「それは……、これから頑張って……。」


アイオロスはあからさまに大きな溜息を吐くと、私が手に抱えていた赤い毛糸が幾つも入ったビニールパックを取り上げ、それが置いてあった棚へと戻した。
そして、私の背中を一つ軽くポンと叩いて、店の向こう側を指差す。


「ほら、アナベル。向かい側の店に同じような赤いセーターが飾ってあるだろ。俺はあれで良いよ。」
「え、何よ、酷い! アイオロスったら、私が編んだセーターは着れないって言うの?!」
「そうじゃなくて、初めてなんだろう、編み物? それでちゃんと作れるのかい?」
「それは……。」


やってみなきゃ分からないじゃないと、小さく呟いた私の言葉に、アイオロスはもう一つ溜息を吐いた。
ついでに困ったように苦笑いを浮かべ、少しクセのある金茶の髪を掻き毟る。


「人には『得手不得手』ってものがあるだろう? アナベルが不器用だって事は、イヤになるくらい良く知ってる。この前だって、ボタン付けで指に針を刺してたし……。」
「そ、それとこれとは話が違うわ!」
「俺だって、アナベルの誕生日には、デスマスクやシュラのように『男の手料理』ってヤツを作って、もてなしてやりたいと思った事があったけど、どう考えても料理が不得手な俺だ。ムサカを真っ黒に焦がすのがオチだろう? そんな黒焦げムサカが出されたとして、アナベル、キミはそれを食べられるか?」
「いや、それは流石に。」
「だろ? だからさ……。」


どう考えても、アレコレと屁理屈を並べて誤魔化されている気がしてならない。
いまいち納得しかねて唇を尖らせてむくれていると、アイオロスは目の前の棚から、白い毛糸が五つほど入ったパックを手に取り、それを私の手に押し込んだ。


「これで、今年はまず自分のマフラーでも編む練習をしたら良い。で、俺のセーターは来年か再来年か、アナベルが上手く編めるようになったら、その時にプレゼントして欲しい。な、それで良いだろ?」
「それって……。」


つまりは来年も再来年も、私と一緒にいてくれるっていう、遠回しな約束だと受け取って良いのかしら?
そんな先まで、ずっと変わらずに私を好きでいてくれるの、アイオロス?


本当にそういう意味があっての言葉なのか自信が持てなくて、目の前のアイオロスを見上げる。
すると、彼はニッコリと満面の笑みを浮かべて『うん』と一つ、大きくハッキリと頷いてくれた。



優しい拒絶で私を縛る、それがきっと貴方



「さ、この毛糸買って、あっちのセーター買ったら、直ぐに帰ろうな。」
「アイオロス、ホントにあの既製品のセーターで良いの? 誕生日プレゼントなのに。」
「そうだなぁ……。だったら、アナベルの得意なモノを付けてくれれば良いよ。」
「私の得意なもの?」


私の得意なものって、何?
まるで思い付かなくて首を傾げていた私に、スッと屈んだアイオロスが耳元へと小さく囁く。


「―――。」
「っ?!」


途端に真っ赤になった私を見て笑うと、彼は立ち尽くしたままの私の手をギュッと握り締め、力強いいつもの足取りで歩き出した。



‐end‐





何となくアイオロスは口が上手くて、都合の悪い事はヒラリとかわしそうだなぁ、とか思って書きました。
そんな話を捧げ物にするな! と怒られそうですが、人馬ラブなNさんなら、きっとそんな兄さんでも受け入れてくれるだろうと信じてます(コラ;)
ちなみに最後に耳元に囁いた兄さんの一言はご想像にお任せしますが、かなりの高確率で(エ)ロスの本領発揮な一言だと思われますw

2009.11.04



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