陽だまりの人



汗を掻いたシャツ、泥の付いたズボン、汚れたアンダーウェア…。
もう直ぐ寿命の来そうな古い洗濯機をフル稼働させて、大量にあったお洗濯物を何とかしてしまえば、午前のお仕事は終わりだった。
春の始めの暖かな光が降り注ぐバルコニーに洗濯物を干し終え、爽やかな気分でキッチンへと向かう。


今日のお昼は何を食べようかな?
お天気が晴れだからか、心もどこか明るい気持ちになって、ランチに何を食べようとか、そんな当たり前の事を考えるだけでも、今日は何だか楽しい。
鼻歌なんか歌いつつキッチンへと向かいながら、でも、その足はリビングを通り抜けようとした途端に、ピタリと止まった。


「……行き倒れ?」


まさか、こんな場所で?
そんな事、ある訳がない。
だって、ココは十二宮の一つ、人馬宮。
しかも、プライベートルームの中な訳だし。


でも、現に私の視界には、リビングのドアを開けたところに、バッタリとうつ伏せで倒れている人物が映っている。
これを行き倒れと言わずして、何と言うのか。


「あ、あのぉ……。」


恐る恐る近付き、恐々と声を掛けても、床に倒れたその人はピクリとも動かなかった。
だが、傍まで寄って気付く、柔らかな金茶色の髪に。
見覚えがあるどころか、良く見知った、その髪色。


「……あれ? アイオ、ロス様?」


助けを求めるように前に長く腕を伸ばしたまま倒れていたのは、どうやら私が仕える宮の主・アイオロス様のようだった。
見れば、リビングのドアは半開きで、ココに入って来たとほぼ同時に、バタリと倒れてしまった様子。


「よっぽど凄い激務だったのね……。」


そう、三日前の夜中過ぎ。
突然、教皇宮に呼び出されたアイオロス様は、それから一度もこの宮に帰って来ていなかった。
双児宮の女官の子から聞いた話によると、何でも聖域内の人員に関係する重要な外交とやらで、有り得ないミスが発覚し、早急に手を打たねばならないとか何とかで。
兎に角、にっちもさっちもいかなくなって、サガ様と二人、ずっと教皇宮に缶詰だったという話。


「アイオロス様? アイオロス様ー?」


きっと、この三日間、一睡もしないで働き詰めだったんだろうな。
とりあえず、死んではいないだろう事を確認するため、悪いとは思いながらも、突っついてみた。
が……、まるで反応はなかった。
困った、どうしよう。


――ユサユサ……。


揺さ振ってみても、指先一本すら動かない。
まさか、本当の本当に過労死じゃ。
いや、体力自慢のアイオロス様に限って、そんな事はないわ。
どっちかって言うと、先に過労死しそうなのはサガ様よね。
などと思った事がバレたら、私の命も危ないかも……。


「アイオロス様ー? 床の上で寝てたら、風邪引きますよ? 身体も痛くなりますし。」


えぇい、もう!
幾らお疲れだからと言って、こんなトコで寝ちゃうなんて、ホント困った宮主様だわ。
とりあえずは、寝息が聞こえるから死んではいないようだし、せめてソファーの上、それがダメならカーペットの方まで移動させなきゃ。


「うぐ、ぐ……。」


お、重い!
何でこんなに重いんですか?
太ってる訳じゃないのに、これ全部、筋肉の重みですか?
う、動かない!
鉛みたい、実は金属で出来てるんじゃないですか、アイオロス様の肉体って!


「どうしよう……。」


このまま放っておく訳にもいかないし。
かといって、私の力じゃ一ミリたりとも動かないし……。


ええい、面倒!
仕方ない、最後の手段よ!


「よい、しょっと。」


うつ伏せだった身体を横向きに返して、頭だけ持ち上げると、空いたスペースに自分の膝を捻じ込んだ。
手を離すと同時に、足の上に掛かるアイオロス様の頭の重み。
頭とは言え、ズッシリと乗っかってくる感触に、アイオロス様の疲れの大きさを感じられた。
ベッドまで辿り着けない程、そのまま泥のように眠ってしまう程、疲れていたんですね。


手を伸ばして、アイオロス様の柔らかな金茶色の髪を、そっと撫でる。
窓から差し込む日差しが、丁度、私達がいる場所に大きな陽だまりを作って、暖かな優しさに包まれているようだった。



今日だけは私の膝で、どうぞゆっくりと



いつの間にやら、私もウトウトしていたらしい。
お陽様の光が、とても心地良かったから。
だけど、目覚めて気が付いたのは、ムズムズと何処か変な感触を覚えたからで……。


「……アイオロス様。いつから目を覚ましてらっしゃったんですか?」
「ん〜? 今さっき。」
「では、この手は?」
「や、ほら。夢見心地で手を伸ばしたら、良い触り心地を見つけたなぁ、と……。」
「だからって、人のお尻を?! アイオロス様なんて、大っ嫌い!」


嘘、ホントは大好き、とてもとても好き。



‐end‐





スミマセン、スミマセン!
ロス兄ファンの皆様、スミマセン!
アイオロスがセ○ハラオヤジになってしまi……、げふん!
いえ、あの、こう疲れて倒れちゃったりするロス兄さんも良いかなぁなんて……。
終わり方が激しく間違ってますが(滝汗)
でも、きっとロス兄さんは尻スキー……、ごふっ!

2009.03.23



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -