sweet kiss



めっきり肌寒くなった秋の日。
閑散とした人馬宮のプライベートルームに、私は一人きりで。
冷え切った部屋の中で、どうにか暖かく過ごそうと、私はブランケットに包まって、ソファーの上に沈んでいた。


テーブルの上には、午後のティータイムを彩る、鮮やかで綺麗なティーセット。
ティーポットの中では温かな琥珀色の紅茶が揺らめき、白いお皿の上には心踊る甘い宝石が並ぶ。
温かな湯気が立ち上るレディグレーの上品な香りに心癒されながら、私はお皿に乗ったチョコレートを一粒、摘んだ。


「甘い。でも、美味しい。」


ベルギー産チョコレートの濃厚で強烈な甘さに、一瞬だけ口内がキュンとなるが、それは直ぐに全身に広がる優しい甘さに変わる。
日常のホンの些細な出来事に、幸せを感じてしまう私は、単純なのかしら?
そう思いながら私は、もう一つ、可愛い形のチョコに手を伸ばした。


「うん、甘い。」
「へぇ、どのくらい?」
「うわっ! アイオロスッ?!」

ソファーの背もたれの後ろから、前触れも無くいきなり現れたアイオロスに驚いて、私は文字通り飛び上がった。
振り返って見れば、ニコニコと笑ったアイオロスが、背もたれの上に組んだ腕を乗せて体重を預けている。
その笑顔は心底楽しそうで、彼は目を細めて私を眺めていた。


「何もそんなに驚く事ないだろ、アナベル?」
「だって、アイオロスってば、気配もしなかったし、足音も物音もしなかったし。突然、ひょっこり現れるんだもの。」
「ははは。ゴメンゴメン。」


謝るつもりがあるのか無いのか、悪びれずに笑いながら、そう言って。
ソファーの後ろから移動してきたアイオロスは、私の隣に座るなり、自分も艶々と輝くチョコレートに手を伸ばした。


「ホントだ。甘い、な……。」
「でも、美味しいでしょ?」
「あぁ。だが、俺にはちょっと甘過ぎる、かな?」


と言いつつ、もう一つ、手に取った丸いチョコを口に放り込む。
何だかんだ言って、アイオロスは甘い物が好きだ。
私がお茶請けにしているこのチョコも、放っておいたら全部食べてしまうに違いない。


真横で三つ目のチョコを口に運んだアイオロスを黙って見ていた私は、油断していたためだろうか。
いつの間にか背に回っていた彼の腕に引き寄せられ、その逞しい胸の中へと抱き竦められてしまった。


「やっぱり甘過ぎるから、少し中和しないとな。」
「え? ……んっ!」


絡み付くキスは、いつもの甘さの上に、濃厚で芳醇なチョコレートの味が付加されて、より甘く刺激的になる。
普段とは異なるキスの感覚に魅了され、私は深く深くアイオロスを求めて、夢中で唇を押し付け舌を絡めた。


「ふっ……、ん。」


離れてしまった唇が名残惜しく、無意識に小さな吐息が漏れる。
目聡く、それに気付いたアイオロスが、からかい混じりの笑顔で嬉しそうに私の顔を覗き込んでくるのが恥ずかしくて。
私は赤くなった顔を隠すように俯いた。


「すっかり気に入っちゃったみたいだね。チョコレート味のキス。」
「やっ。だって、ロスが……。」
「美味しかったろ? 夢中になってるアナベルは凄く可愛かった。」
「……バカ。」



秋色の季節の中で、貴方の唇だけが熱い



視界に映るアイオロスが、四つ目のチョコレートに手を伸ばしている。
一箱に入っていた数は、全部で六つ。
と、いう事は……。


「あ! それ最後の一つ!」
「ゴメン。食べちゃったよ。」


お茶の時間の楽しみに買った高級チョコレート。
結局、アイオロスに残り全部を食べられてしまった。



‐end‐





ロス兄さんとチョコレート、激しく似合うと思いませんか?
彼には甘い物が似合います。
いや、ロス兄さんの存在自体が「甘〜い!」ですよね^^
こんな話書きながら、私はチョコが苦手というのは、ココだけの秘密であるw

2008.10.18



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