雨上がりの魔法



昨夜から降り続いていた雨が急に上がり、一気に青空が広がった。
突然、灰色の世界に顔を出した太陽の光に、俄かに戸惑いながら、十二宮の階段を上り続ける。


ずっと足元を見ていた視線を不意に上げると、教皇宮の前に誰かが立っているのが見えた。
眩しい太陽を背景に、真っ黒なシルエットになった姿は、多分、黄金聖闘士の誰かだ。
私は目を細めて、それが誰であるのか見極めようとしたが、あまりの眩しさに、直ぐ断念した。


「何しているんだ、アナベル? こんなトコロで。」


見上げていた黒いシルエットの人物が、私に投げ掛けた言葉。
その明朗な声で、彼が誰であるのかが、一瞬の内に分かった。


「アイオロス?」
「あぁ、そうだよ。」
「探していたの、貴方を。」
「俺を?」


小走りに階段を駆け下り、近付いてきたアイオロス。
私の数段前まで来て、やっと、その顔をハッキリ捉える事が出来た。
アイオロスは頭の上に疑問符を浮かべ、眉を寄せて考え込んだ顔をしている。
私がどうして彼を探していたのか、その理由に心当たりが全くないからだろう。


いつもの穏やかな笑顔は勿論、大好きだが、こういう真剣な表情も好きだった。
キリッとした端整な顔立ちに、心がドキリと反応してしまう。
そして、その強い光を宿す瞳が、より一層、強い力を持って輝き、私は益々、彼に惹かれていくのだ。


「どうしても、アイオロスに逢いたかったの。」
「夜になれば、逢えるのにかい?」
「うん。今直ぐ、逢いたかったの。」


夜になるまで、待てなかった。
このおかしな天気の影響か、心が妙にざわついて、落ち着かなくて。
こんな時はどうしても、無性にアイオロスに逢いたくなる。
そして、彼に抱き締められて、その逞しい腕の中で、今この時、感じる想いを、ギュッと噛み締めたくなるのだ。


「アイオロス……。」


私は両腕を彼の方に伸ばして、縋るように目で訴えた。
それを受けたアイオロスは、仕方ないなといった顔で、そんな私を優しく抱き締めてくれる。
だが、触れてしまえば、それだけでは満足出来なくて。
もっともっとと、更なる望みが湧き上がってくるのはどうしてだろう?
持て余す程に体内の熱が高まり、抑え切れなくなった私は、潤んだ瞳をアイオロスに向けた。


「……ね。人馬宮、行こ。」
「ん? どうした、アナベル?」
「もっと……。アイオロスを感じたいの。」


私の言葉を聞いた瞬間、彼の瞳に浮かんだ情熱の色を、私は見逃さなかった。
彼の心に火を点けて、燃え上がる身体で抱き合って、分かち合いたい。


「今直ぐ、アイオロスが欲しい……。」
「俺もだよ……。今直ぐ、アナベルが欲しい。」


迸り出る激しい感情の波に逆らう気なんて、これっぽっちもありはしない。
軽くキスを交わした後に、力強く抱き上げられれば、それだけで堪え切れずない熱い吐息が唇から零れ出た。



奔放な言葉で、誘い誘われ



キスすればキスするだけ、貴方が不足する。
抱き合えば抱き合う度、貴方がもっと欲しくなる。
それはきっと、アイオロスに掛けられた魔法だ。
ずっとずっと、一生解けない魔法に違いない。



‐end‐





何とも大胆なヒロインさんだ;
(エ)ロス兄さんを誘ってますよ、思いっきり。
盛り真っ只中の(エ)ロス兄さんなら、いつでも「カモン!」で両腕広げて待ってそうですがねw
きっと彼女は知らず知らずの内に、ロス兄さんに暗示でも掛けられたに違いないです^^

2008.05.12



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