あの夏の日から数年後。
『鳥のアイオロスさん』が、実際は鳥などではなく、アテナ様の下で地上の愛と平和を守る聖闘士、それも最高位の黄金聖闘士なのだと理解した私。
そして、自分の中で変わらずあり続ける溢れんばかりのこの想いが、『恋』である事も理解した。


風のような鳥のような、忘れられない彼への淡い恋心。
それは年を追う毎に深まり、思い出は眩さを増すばかりで。
私の胸はいつしか、彼への切ない想いでいっぱいに溢れていた。
淡い恋心が、深い愛へと変わっていたのだ。


そして私は女官になることを選び、親兄弟の反対も振り切り、聖域という特殊な場所へと飛び込んだ。
迷いはなかった。
彼に、もう一度会うためなら、そこに迷いなんてある筈もなかった。
あの日の面影、消えない残像。
彼の太陽のような微笑みを求めて、どこまでも駆けていった私の心。
会いたくて、ただ会いたくて。


だけど――。


現実は、時に重く辛いもの。
鋭い刃(ヤイバ)の形をとって、胸の奥にまで真っ直ぐに突き刺さる。
そう、痛むこの胸に、救いなどなくて。


彼はいない、何処にもいない。
会いたい人には、もう会えない。
どんなに胸が心が痛んでも、届かないのだ。
私の想いは永遠に。


それでも、彼の名前を呼ぶことすら憚られるこの聖域で、私は面影を求めて歩き、ずっと変わらずに想い続けた。
瞼の裏に焼き付いて離れない、あの黄金色に光る翼、青空に舞う羽根。
諦めきれない、諦めたくない。
いつかきっとまた会える、会いたいと信じて、彼の守護した人馬宮を、今度は私が守り抜こうと心に決めた。


人の気配のない人馬宮。
冷たい石造りの壁、床、柱。
来る人を拒絶するような冷たさと静かな佇まいには、在りし日の彼を髣髴(ホウフツ)とさせる暖かさは、何処にも見当たらない。
なのに、私が腕を伸ばして触れれば、何処に触れても彼の記憶が蘇る。
柔らかな笑顔をした彼が、あの日のように私の目の前に降り立ち、全てを包み込んでくれる、そんな気がして。


待ち続けよう、そして、守り続けようと、心に決めたのは、いつの日だったか。
どんなに醜く老いても、彼が戻るまでは。
ここで、この人馬宮で。
私は彼の事だけを想い、祈りを捧げようと、そう誓った。





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