溜息より熱く気が付けば、いつも決まってアイオロスの思うように流されている自分がいる。
彼の持つ雰囲気というか、彼が作り上げるムードというか。
そういった類のものを演出するのが上手いのか、アイオロスが持つ元々の資質なのか。
今日こそは「疲れてるからヤだ。」と、はっきり意思表示しようと心に決めていても、いつの間にか、なし崩し的に押し倒されている自分がいる。
そして、全てが終わってから後悔するのだ。
グッタリと鉛のように重くなった身体を、無理矢理に起こしながら。
何で受け入れちゃったんだろう、と。
「背中……、痛い。」
「ん? あぁ、すまない、アナベル。俺が下になれば良かったよな。次は気を付けるよ。」
違うわ、アイオロス。
そういう問題じゃない。
私が言いたいのは、思い立ったら即行動とばかりに本能の赴くまま床に押し倒したりしないで、せめてベッドまで運んでって事。
それよりも何よりも、私が辛そうな時は、少し自重してって事。
「何、アナベル? 俺とするの、嫌?」
「だから、違うって……。」
アイオロスの事は愛しているし、彼と身体を重ねる事が嫌いな訳でもない。
ただ、私はもっと愛されていると自覚したい。
ただただ慌ただしく本能の赴くままに愛し合ったりだとか、そういった行為による愛情表現ではなく、私の事を気遣ってくれる優しさとか、思い遣りとか、そういう事によって。
でも、鈍いアイオロスの事だ。
こんな事を言葉で訴えたところで、何の事やら分からぬと首を傾げるだけだろう。
ホント、女心には疎いのだから。
「あのね、私が言いたいのは――。」
そこまで言って、ハッとした。
顔を上げて目の前のアイオロスを見れば、彼は恐ろしくセクシーな姿をしていたのだから。
つい先程まで、床の上で奔放に愛し合っていた私達は、その性急な行為故に、中途半端な形で服を纏ったままだった。
「……っ。」
「何、アナベル?」
視線が泳ぐ。
アイオロスの姿を、直視など出来なくて。
肌蹴たシャツからは逞しく筋肉に覆われた身体が惜しげもなく晒され、ズボンと下着は腰のギリギリのところまでずり落ちて。
大きく開いたシャツから覗く健康的に日焼けした胸板は、熱に上気して汗ばみ、その薄っすらと掻いた汗すらセクシーに見えてしまう。
床にドカリと座り込んでソファーに寄り掛った状態で、汗で湿った髪を艶かしく掻き上げる姿といったら。
マトモに直視なんて出来やしない、それくらい色っぽい。
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