風に揺れる翼



強い風が吹く。
バサバサとはためいて揺れるスカートを押さえ、それでも、目を伏せてしまわぬように、俯いてしまわぬように、強い気持ちで顔を上げた。
見下ろす十二宮の石段に、黄金色の枯葉が舞う。
ゆっくりと変わりゆく季節は、風に踊る葉っぱのように、私の心を揺らした。


急ピッチで進んでく聖域の復興の様子。
枯れゆく季節とは逆行して、活気に溢れる皆の姿。
身分の別なく、聖闘士も、雑兵も、神官も女官も、一般の住民も、忙しなく行き交い、汗と笑顔を浮かべて働く。
そんな中を、一際、存在感を滲ませて、十二宮の階段を上がってくる人物がいた。
どうしてだろう、目が離せない。
ゆっくりと、なのに、あっという間に、私の直ぐ目の前まで上ってきた……、彼。


「やぁ、アナベル。こんな強風だというのに、聖域の皆は元気だね。」
「…………。」


そうね、皆、元気だわ。
でも、貴方が一番、元気そうね。


「これなら直ぐに聖域は元に戻るだろう。皆の生活も元通りだ。」
「…………。」


元通り……。
今までの生活に貴方は居なかったのに、貴方が戻って来ても元通りと言えるの?


「しっかし凄い風だな。俺ですら飛ばされてしまいそうだ。」
「…………。」


貴方が飛ばされるだなんて、何の冗談?
風なんて感じていないみたいに、堂々とココまで上ってきたクセに。
私は髪を纏めていて良かったわ。
長いままにしていたら、風に乱された髪が邪魔をして、近付いてきた貴方の姿を見つけられなかったかもしれない。


「なぁ。少しくらいは返事してくれないか、アナベル。黙り込んだままだと、俺が独り言を呟いているみたいで恥ずかしい。」
「…………。」


返事なら、しているじゃない、ちゃんと。
でも、声にならないの。
久し振り過ぎて、懐かし過ぎて。
貴方という人が、目の前に居る事が、信じられなくて。


「……どうして?」
「ん?」
「私……、の、事……、分かったの?」


あれから十三年も経っている。
最後に貴方と顔を合わせた時、私はまだ幼い子供だった。
アイオリアの背中の後ろに隠れて、もじもじしているしかなかった恥ずかしがり屋の子供だった。


「分かるさ。子供だろうと、大人になっていようと、アナベルの事は分かる。分からない筈がない。」
「……アイオロス。」


刹那、吹き抜けた風は強く、それでいて暖かく、柔らかだった。
私は再び、しっかりとスカートを押さえつつグラグラと揺れる身体を支え、でも、彼は風なんて吹いていないかのようにビクともせずに立っている。
雄々しく、力強く。


なのに、不思議。
その背に広がる黄金の翼だけが、風に揺れる木々の葉の如く、柔らかに揺れていた。
風に合わせて、ゆらりゆらり。
硬い金属、オリハルコン製の黄金聖衣なのに、草木と同じように風に揺れてフワフワと踊る。


「面影は変わらない。アナベルはアナベルのままだ。昔と同じ愛らしいアナベルだ。」
「結局は、成長してないって事でしょう? 貴方にとっては、まだまだ幼い子供に見えるのね。」


視界に舞うのは、黄金色の羽根?
いや、違う。
黄金色の枯葉が彼を取り囲むように風に舞い、まるで羽根のように見せているのだ。
雄々しいのに美しく、そして、儚い。
力強くそこに立っているのに、手を伸ばせば消えてしまいそう。
本当に、本当に生き返って、戻ってきたの?
貴方は十三年前に居なくなったアイオロスと、同じ人なの?


「成長していないのとは違う。アナベルは幼い子供なんかじゃない。綺麗で魅惑的で、一目で心を奪われた。今直ぐにでも、ベッドに連れて行きたいくらいだ。」
「な、何を言って……。」


カアッと身体が熱くなる。
そして、目の前が赤く染まっていく。
それが沈みゆく夕陽のせいだと気付くまで、自分の顔から出た火で視界が燃えたせいだと思い込んでいた。


「冗談なんかじゃない。今直ぐには無理でも、今夜には必ず俺のベッドで過ごしたいと願っている。」
「わ、私はもう子供じゃないのよ。」
「そうさ。だから、昔みたいな添い寝じゃない。俺はアナベルと、男と女としての契りを望んでいるんだよ。」


顔には柔らかに笑顔が浮かんでいても、瞳は真剣で真っ直ぐ。
怖いぐらいに嘘のない言葉に、私は彼を見ていられなくなって俯く。
下げた視界には、ユラユラと揺れながら近付いてきた、黄金の翼の先が映った。


あぁ、何て事だろう。
叶わない夢と諦めていた彼の帰還、それだけでも驚愕の出来事だというのに。
こんな事ってあるのかしら。
強い風に、金色の枯葉が舞う。
全身を包む冷たい秋風ですら、この内から燃える身体の熱は消せそうにない。



今宵、貴方の胸に沈みゆく私



‐end‐





久し振りにLCなどを読み返していたら、シジ兄さんが余りにEROセクシーなので、ついうっかりロス兄さんのEROセクシーさを書きたくなりました。
復活して即、(幼馴染の)女官さんに手を出そうとするあたり、(エ)ロスの名は伊達じゃないですねw

2021.10.07



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