贈り物、正解はどれだ?



「う〜ん……。」
「どうした、アナベル? 何をそんなに悩んでいる?」


寒さも強まってきた十一月の末日。
温かな生姜入りココアと甘いマーブルクッキーをテーブルに並べ、私は一人、唸り声を上げていた。
指先で突っ付いた小振りな包みは、晩秋のオレンジ色した陽光に照らされてキラキラと光っている。
メタリックブルーのツルリとした包装紙は、送る相手に合わせて店員さんが選んでくれたものだった。


「シュラ……。」
「またそれか。もう買ってしまったものを、いつまでも悩んでも仕方ないだろうに。」
「だって、本当にコレで喜んでもらえる? 写真立てなんてありきたり過ぎて……。」
「アナベルから貰ったものなら、あの人は何でも嬉しいと思うだろう。大丈夫だ。」


ドスッと向かい側の椅子に座り、シュラはクッキーを一枚、素早く摘んだ。
いつも、こうして何気なく気遣ってくれたり、励ましてくれたり。
彼には迷惑を掛けてばかりだ。
自分の宮に私を置いてくれているのも、あの人のところへ行き来し易いようにと、便宜を図ってくれての事。


「それに、ちょっと前だったか。昔の写真を見つけてな。飾りたいと言っていたし、丁度良いんじゃないか。」
「昔の写真?」
「あぁ、小さなアイオリアと一緒に写っているもの。それに、あの人と、サガと、まだ候補生だった俺達が皆で写っている写真が書庫の奥から出てきた。懐かしそうに眺めていたぞ。」
「そう、それなら……。」
「納得したか? だったら、それを持って、早く人馬宮に渡しに行け。じゃないと、今日が終わってしまう。」


促されるまま立ち上がった。
テーブルの上に置かれたメタリックブルーの包みを手に取って。
だが、その刹那。
背後から音もなく伸びてきた腕が、私の手の中からヒョイと包みを奪い取っていた。


「人馬宮まで来る必要はないよ。俺がコッチに来たから。」
「アイオロスッ?!」
「なかなか来ないから待ち草臥れた。アナベルは姿を見せないし、流石に痺れを切らしたって訳。あ、俺にもココアね。ハチミツと生姜も入れて。」


唖然としている間に、私の隣の椅子に収まったアイオロスは、いつもと変わらぬ勢いでココアを催促。
それに対して、条件反射でキッチンに向かった私。
すっかり彼のペースに飲まれて混乱した頭を元に戻す事も出来ないまま、湯気の上がるココアと共にリビングに戻ると、アイオロスは既に包みを解いていて、私が選んだ写真立てを繁々と眺めているところだった。


「良いね、これ。シンプルだけど、形が洒落ていて。丁度、写真立てが欲しいと思っていたんだ。」
「そう? 喜んでもらえて良かった。」
「だから言ったろ。悩む事などないと。」


シュラと私の会話を聞いて、アイオロスが目を見開いた。
ココアのカップを持ち上げた手が止まり、私の顔を覗き込むように顔をコチラに近付けてくる。


「何? 悩んでいたのか、アナベル?」
「うん。こんな程度だったら、誕生日プレゼントには簡素かなって……。」
「う〜ん、俺としては嬉しかったし、十分だと思ったけど。でも、それって要はアナベルの気持ちの問題だろう?」


言われてみれば、確かにそうかも。
もっと煌びやかで、もっと心に残るような贈り物を選びたい。
その相手が『聖域の英雄』で『皆の憧れる聖闘士』である人だから。
更には、恋人と言っても、まだ一線を越えていない『恋人未満の恋人』であれば尚更で、彼の心を繋ぎ止める事の出来るような何かをと、余計に思ってしまうのは仕方なかったのだ。


「だったら、プラスアルファを加えれば良いさ。」
「……え?」
「今夜、夜が更けたら、俺の宮に来てくれれば良いよ。寝室の鍵は開けておくから。アナベルからの夜這いなら大歓迎。」
「よばっ……、ゴホッ! ゴホゴホッ!」


何て事を言い出すのでしょう、この破天荒な人は!
目の前にシュラも居るというのに!
助けを求めてシュラの顔を見遣るが、彼は肩を竦めただけで、口を出す気は全くなさそうだった。


「何て事を言うのよ、アイオロス!」
「だって、俺の誕生日じゃないか。俺達も、そろそろ前に進んで良い頃だし、そう思えば、絶好の機会だろう?こういう記念日っていうのはさ。」
「む、無理よ……。」
「じゃ、今夜は俺が夜這いにコッチに来ようか。」
「それだけは止めてくれ。俺の宮だぞ。隣室から艶めかしい喘ぎ声など聞こえてきては、俺が眠れん。」
「う〜ん、だったらどうするか……。」


冗談なのか本気なのか。
いつもの飄々とした軽いノリで考え込んでるアイオロスとは対照的に、私はダラダラと冷や汗を流すしかない。
贈り物一つ、写真立て如きでアレコレ悩んでいた自分が、本当に馬鹿らしく思えてきた瞬間だった。



今日のところは勘弁してください



(もう間に入るのも面倒だ。いっそ明日からでも人馬宮に引っ越せ、アナベル。)
(お、それ良いな。俺も引っ越し賛成に一票で。)
(ええっ?! 駄目よ、駄目!)



‐end‐





こちらの兄さんは意外と我慢していますねw
いつもなら有無を言わせず夜這いでガッツリ……、ごっほごほ。
少し遅れましたが、ロス兄さん、誕生日おめでとう御座いました!

2016.12.04



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