彼の策略



「…………は?」


その夜。
夕食を食べ終えて、リビングで二人、ソファーに並んで、ゆっくりとお気に入りのお酒を傾けていた時。
隣で雑誌を捲っていたアイオロスが、あまりに自然に、それが普通の事だと言わんばかりに、『有り得ない事』を言い出すものだから、私は当然の如く耳を疑った。


「えっと……、意味が分からないのですけど、アイオロス。」
「分からない訳がないだろ、アンディ。言葉通り、そのままなんだから。」
「という事は……。」


彼が話し出したのは、明日の予定。
アイオロスは久し振りに、一日いっぱいお休みの日。
こういう時は、前日から「何をしようか?」なんて相談をするのが日常の事。
だけど、今夜は彼が口走ったその内容が、とんでもないものだったのだから、私が戸惑ったのも、そして、唖然としたのも無理のない話。


「ヌーディスト・デイ。つまりは、一日中、裸で過ごす日にするのさ。」
「やっぱり、そうなの……。」
「食事をするのも裸、ソファーでリラックスする時も裸。新聞も本も裸で読む。恋人同士とはいえ、素っ裸で目の前に居られたら、そりゃあドキドキするだろう。自然と気分が昂揚して、より深く愛し合えるようになるという論理だ。」
「あのね、アイオロス。私、お料理するのだけど?」
「そうだな。なら、料理中だけは、エプロンの着用を許可しよう。」


呆れた……。
全く、この人は何処から、そのような情報を仕入れてくるのだろう。
大方、デスマスク様辺りだろうとは推測も付くけれど、何もかもが世間ずれしたアイオロスの事。
十三年の時を経て、この世に復活を遂げた際、少年から青年へと一気に成長してしまった事もあって、新たに与えられた知識や情報は、何でもかんでも無駄に吸収してしまうのだから困りものだ。


「それって、思い付き? それとも誰かに何か言われたの?」
「雑誌だよ。カミュが読んでた雑誌を借りたら、そこに載ってたんだ。マンネリ気味の恋人関係には、普段とは違う刺激的な時間が有効だってね。」


あぁ、雑誌に良くある『恋人関係のお悩み解決』みたいな特集ページね。
あんな誰もマトモには読まないような数ページまでも、真剣に読んだ上に自分の知識にしてしまうなんて、この人らしい。
というか、そんな雑誌の特集に感化されてどうするのよ、黄金聖闘士ともあろう人が。
いや、それよりも何よりも……。


「ねぇ、アイオロス。私達、全然、マンネリじゃないと思うけれど?」
「そう? でも、アンディは毎朝、グッタリしてるじゃないか。それって、つまりはマンネリ気味って事だろ?」
「マンネリじゃなくて、疲れ切っているだけです……。」


誰かさんが激し過ぎる――、というか、底なしなのが悪いのよ。
疲れてグッタリしている朝に、更に追い討ちを掛けて圧し掛かられては、ウンザリ顔になっちゃうのも仕方ないでしょう。


「良いと思うんだけどなぁ、ヌーディスト・デイ。俺とアンディには、新しい刺激も必要だと思うけど。」
「アイオロスだけはね。私は絶対に嫌よ。大体、誰か訪ねてきたら、アイオロスは兎も角、私まで真っ裸だなんて、どうするつもりなの?」
「鍵を掛けて、カーテンを締め切って、居留守を使う。もしくは、『本日、訪問不可』ってドアに貼り紙をしておく。」
「そんな事をしたら、後でサガ様に怒鳴られるわよ……。」


相変わらず、後先を考えないのだから……。
思い付きで舞い上がって、その後の事なんて全く考えない。
そういうところは、真っ先に突っ走っていける人の特権よね。
でも、彼の尻拭いを出来る事もまた、恋人である私の特権。
大変な思いをしながらも、アイオロスのために奔走するのは幸せな事だ。
それは彼と私が『二人で一つ』なのだという証にも等しいものだから。



彼の策略 落ちるのは私



「で、どうする、アンディ? する? しない?」
「しないわよ。当然でしょ。」
「当然なのか、そうなのか……。」
「もうっ。そんな残念そうな顔しても駄目よ、アイオロス。」


結局は、このガッカリ具合に騙されて、良くない結果に繋がると分かっていても、彼の策略に乗ってしまうのは私。
分かっているの。
刺激を与えて気分を盛り上げるどころか、直ぐに興奮しちゃってベッドに直行してしまう事くらいは。
ヌーディスト・デイなんて言っていても、ただベッドで一日過ごすだけになってしまうのは、目に見えているのよ。



‐end‐





偶然に見つけた小ネタで『倦怠期を吹き飛ばす技』的な特集があって、そこに『恋人と二人、ヌードで過ごす一日を作る』っていうのが書いてあったのですよ。
で、これを喜んでやりそう(提案しそう)なのはロス兄さんだなぁとw
正直、お相手がロス兄さんだったら、倦怠期なぞ来ないというか、兄さんが吹き飛ばしてくれそうな気がしますが(気がするというより、確実に来ないですねw)
そんなこんなでロス兄さん、お誕生日おめでとうございました^^

2014.11.30



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