曇天



俺が唯一、本気で惚れた女。
アリアと別れた日も、こんな憂鬱な曇り空だった。


アイツとは二年、付き合ってた。
正直、この俺が一人の女と、そんな長くやっていけるなんて、アリアに出会うまでは、絶対に有り得ないと思ってたし、アイツに飽きる事なく続いた事に、俺自身が一番、吃驚した。


別れたのは、きっかり一年前。
忘れもしねぇ、俺の誕生日の事だ。
今日と全く同じようにドンヨリ曇り空が何処までも続いて、それだけで何だか気が滅入るような午後だった。


しっかし、俺の誕生日ってのは、必ず曇るように出来てンのか?
俺は、よっぽど神様に嫌われてンだな。
それか何かの呪いか、はたまた、これまでの行いが最悪に悪かったからか……。


まぁ、良い。
どのみち思い出しちまったンだ、あの日の事を。
アリアに別れを告げた、あの厚く暗い雲の下での一幕を。
俺がアリアを一方的に傷付けた、一年前の誕生日の思い出を。


別れた理由は、ただ俺の身勝手に尽きる。
アリアは何も悪くねぇ。
寧ろ、俺には出来過ぎた女だったかもしれねぇ。
色んな意味で、あんなイイ女、そうそういないだろう。
それなのに、俺がアイツを手離したのには訳があった。


一年前――。


それは聖戦が起きる直前、十二宮で俺が命を落とす、その少し前だ。
俺は薄々気付いていた、決戦の日は近いと。
そして、俺が生き残れないだろう事も、何となく分かっていた。


もし、俺がココでいなくなっちまったら、アリアはどうなる?
邪悪を地で行ってた俺だ、印象も評判も最凶に悪い。
しかも、俺は悪の側に立つ聖闘士。
哀れなサガの負担を少なくするには、俺が汚い部分を全部、引き受けるべきだろ。
そう思って、それまでの日々、全身に血を被って生きてきた訳だし、今更、そこを変えるなンて出来ねぇ。
だからこそだ。
俺がいなくなった後、アリアに降り掛かる災難を思えば、あのまま続けていく訳にはいかなかった。


傍から見れば酷ぇ男だろうが、俺はこれでもアリアを守りたかったンだ。
そういう方法でしか、守れそうもなかったし、不器用過ぎるとは俺自身も思った。
だが、正直に言って、どうなる?
「オマエが大事だから、別れてくれ。」、そう言ったところで、アイツが納得なンてする訳がねぇ。
仕方なかったンだ、あぁする以外。


俺は後悔はしてねぇ。
なのに何で……、思い出しちまうンだろうな。





- 1/4 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -