闇色聖夜



今日はクリスマス。
どことなくソワソワと浮ついた心では、一日の仕事の何と長い事か!
それでも終了のベルが鳴る頃には、大変だった仕事の事なんかすっかり忘れて、心は遥か下方の巨蟹宮へと向かっていた。


教皇宮から外に出れば、突き刺すような寒さが全身を襲う。
吐く息は真っ白な輪を作り、寒さ故に空は澄み渡って。
凍て付く寒さに耳や手が痛くなったけど、これもホンのちょっとの我慢。
辿り着いた先では、きっと大好きな彼が温めてくれるから。


何といっても今日はクリスマス。
素敵なプレゼント……、は期待するだけ無駄だって分かってるけど、あの人の場合。
でも、料理好きなデスは、疲れて帰る私のために何か美味しいものを作ってくれている筈。
今日は一日休みだったし、もしかしたら、お洒落に部屋を飾ってたりするかもしれない。
抑えても抑えてもウキウキと勝手に高まる心に合わせて、私は勢い良く部屋の扉を開けた。


が――。


そんな期待全てを綺麗サッパリ裏切ってくれるのが、彼だ。
プライベートルーム内に一歩、足を踏み入れた私は、それまでのハイテンションは何処へ行ったのやら、一気にクールダウンしていた。


「……真っ暗。……なん、で?」


灯り一つ点いてない部屋に、暫し愕然とする。
そして、ノロノロと動き出した右手が、いつもの習慣で電気のスイッチを探し出すと、パッと灯った電灯が眩しくて、少しだけクラリと目眩を覚えた。
そんな私の視界に真っ先に映ったのは、床にゴロンと転がる、先程までは『大好き』だと思っていた人の憎たらしい寝姿。


「デス……。何してんのよ、こんなところで。」
「あ〜……。何って、昼寝?」
「昼寝って、もう真っ暗なんですけど?」
「あ、何だ……。もう、そンな時間かよ。」


やべぇ寝過ぎた、とか何とか言って、渋々起き上がった彼は、如何にもダルそうに床に胡坐を掻いて座った。
そのふてぶてしさといったら、もう!
クリスマスだというのに汗水流して働いてきた自分が、バカみたいに思えてくる。


「私、お腹空いたんだけど。」
「あ? だったら何か食や良いだろ?」
「デスが作って、待っててくれてると思った。」
「何で、俺が。」


唇を尖らせて私がそう言えば、ンなもん知るかとサラッと受け流す彼。
寝起きでしんどそうに髪をバリバリ掻き毟る仕草が、余計、腹立たしくてムカついてくる。


「だって料理好きじゃないの、デス。」
「そりゃ、オマエ。気が向いた時だけだろ。」


気が向いた時って……。
今日はクリスマスなんだから、それくらいのサプライズしてくれたって良いのに。
ホント女心が分かってない!
て言うか、分かる気ないんだわ、この人!


「ぐはっ! ンだよ、アリア! 急に飛び掛ンな!」
「今日はクリスマスなんだけど?!」
「だから何だってンだ? 俺には関係ねぇ!」
「関係ある!」


どうにもこうにもムシャクシャして、デスに飛び掛った。
で、そのまま押し倒した。
寝起きでボケボケしていた彼は、聖闘士のクセに避ける事も出来ずに、床に頭を打ち付けた。
お腹の上に怒り狂った私を乗せて大の字になったデスは、何とも情けない姿で笑える。
ムシャクシャついでに、彼のシャツの襟を鷲掴みして、前後に揺さ振ってやった。


「やめっ、オマエ! あぁ、アレだ! プレゼントなら、ちゃんと予約してあるぜ!」
「何よ、プレゼントって?」
「今夜の俺とのベッドの予約を――、ぐはっ! 絞まる絞まる!」
「この、どアホ! エロマスク! 禿げろ、禿げてしまえ! こんな銀髪、全部毟り取ってやるわ!」
「痛ぇ、アリア! 引っ張ンな! マジで抜ける!」


こうして不毛なだけの夜は更け。
幸せな聖夜は、他のありふれた闇色の夜と何ら変わりなく、虚しく終わりを告げた。



期待するのが間違い、裏切り上手の貴方だから



ある意味、忘れられないクリスマスになった。
強烈な思い出は、きっとずっと消えないだろう。
それもこれも、彼を好きになってしまった自分がいけないのだけれども……。



‐end‐





あえて、甘いとか幸せとかラブラブとか、そういうところから一番遠いお話を、ワザとこの日に持ってきました。
私はツワモノですか(笑)
蟹さまなら『特別な日』よりも、日常と変わらない時間の方が幸せなんじゃなかろうかと、勝手な思い込みです。
ドタバタなクリスマスも楽しいですよ、きっと^^

2008.12.24



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