肌寒い春の日



昨日まで、春とは思えない程に蒸し暑い日が続いていたのに。
昨夜、突然、雨が降り出したかと思えば、今日はこの寒さ。
夏から一気に冬に変わってしまったような、酷い天気。
春は一体、何処へ?


寒さに全ての気力を奪われて、私はソファーの上で丸まっていた。
膝を抱えて、小さく縮こまって。
一度、その体勢で座ってしまえば、もう動きたくない。
そんな訳で、ずっとそうして座り続けていた。


だが、時間が経つにつれ、その体勢も辛くなり、膝を抱えたままポテッとソファーの上に転がる。
九十度に傾いた部屋を見つめながら、ただボーッと。
ひたすらボーッとしていた。


「ただいま……。って、何してんだ、オマエ。」
「あ、デスだ。おかえりー。」


いつの間にか、執務も終わって彼が帰ってくる時間。
そんな時間までゴロゴロとしていた自分に少し驚いたが、それでも、起き上がる気にはならなかった。


「なンでまた、ンな格好してんだ?」
「だって、寒いんだもの。」


私の目の前に立った彼は、上から私の顔を覗き込むように見下ろしてくる。
視線だけ上へと向けて、チラッと彼を見ると、酷く呆れた表情をしていた。
仕方がないので、渋々、身体を起き上がらせる。


「そんな寒いってンなら、俺が目一杯、温めてやろうか?」
「……温まるどころか、熱くなり過ぎるから、イヤです。」


その整った顔に、ニヤリとアクの強い笑顔を浮かべるデス。
ニヤニヤしたまま私の隣に座って、強引に肩を引き寄せてくるので、顔を背けてピシャリと拒絶した。


「何だってンだよ。この俺が、オマエのためを思って言ってやってんのに。」
「だったら、何か温かい夕食作って。その方が嬉しい。」
「はぁ、夕食? 俺に作れってのか?」


明らかに面倒臭そうな顔をして、彼は片眉を上げた。
そりゃあ、そうだろう。
彼は今まで仕事をしていて、一方の私は、一日中、ココでボーッとしていただけなのだから。


「うん。鶏肉のトマトリゾットが食べたい。デスの料理、美味しいから大好き。」
「大好き、ねぇ……。まぁ、アリアがそんなに美味いってンなら、作ってやってもイイが……。」
「ホント? デスも大好き。」


彼の首に腕を回して、頬にチュッとキスをする。
柄にもなく顔を赤くした彼は、照れ隠しか、慌てて立ち上がった。


「ンじゃ、美味いリゾット作ってやっから、ちょっくら待っとけ。」
「うん。」


彼は二・三歩足を進め、だが、直ぐに立ち止まって振り返る。
んん? っと首を傾げて見つめ返した私に、またニヤリと独特な笑顔を投げ掛けてきた。
こういう時は決まっている。
何かを企んでいる時の顔。


「メシ食って温まったら、今度は俺を温めてくれンだろ、アリア?」
「……仕方ないなぁ。夜になったら、ね。」
「絶対だぜ?」
「お楽しみは、後々まで取っておいて下さい。」


ふざけ半分で笑いながら言ったけど、彼の心には火が点いたみたい。
俄然やる気を出して、足早にキッチンへと入って行った。



貴方の温もりで、この身体に火を点けて



寒くて寝付けない夜になる筈だったのに。
彼の情熱に当てられて、今夜はきっと、熱くて眠れないんだろうな。



‐end‐





春なのに冬並みに寒かったので、思わず蟹さまに温めて欲しくなりました。
彼にいっぱい愛されて、熱過ぎるくらいの夜にして欲しいです(笑)

2008.05.09



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