十三夜



月が出ていた。
十二宮の階段を下りながら上を見上げたら、そこには煌々と照る月。
でも満月までには、あと数日、あと一歩。
ホンの少し欠けた月。
まだ願いを掛けられない月。


ならば、私は――。


願いを掛ける事が出来ないから、想いを口に出してみる。
誰もいないのを良い事に、はっきりと言葉にして。


「貴方が好きだよ。」


そう貴方、デスマスクの事が好きだ。


「デスが好き……。」


夜の空気を伝って、十二宮の階段を、その言葉が走り抜けた。
貴方の元へも届いたかしら?
この闇を抜けて、巨蟹宮の中の貴方の所へ。


夜が震えて見える――。


そして、眼前に迫った巨蟹宮は、荘厳な佇まいで私を圧倒した。
何となく、足を踏み入れるのが怖くなり、躊躇いがちに宮の前をウロウロと。
だけど、いつまでもそうしてる訳にもいかず、思い切って宮の中へと足を踏み入れる。


入ってしまえば、フワッと暖かい気配に包まれた。
これはデスマスクの小宇宙だろうか。
あんな口の悪い人だけど、ホントは優しいんだって事、私は知ってるから。
そうじゃなきゃ、私をあんなに愛してはくれない筈。


だけど、プライベートルームに入ると、部屋の中は真っ暗だった。


「あれ? デスマスク、いないの?」


キョロキョロと見回しながら進んでいくと、部屋の中央で彼を見つけた。
月の光が照らし出すソファーの上で、気持ち良さそうに眠るデスマスク。
長い足を投げ出して、ゴロンと寝そべる姿は、なんて無防備なんだろう。
私だけが見れるこんな表情を眺めているのも悪くないけど、もう一つ、私だけが見れる顔があるから。


「デスッ! 起きてーー!!」


大きな声を出すと同時に、彼の上に飛び乗った。


「ぐはっ! ……って、アリア?! オマエ、何しやがる!」


焦って驚いた顔も、私しか見る事の出来ない貴重な表情。
色んな貴方がいて、そんな色んな貴方と共に居られる私は幸せだ。


「オマエな! こんな事しやがって、覚悟は出来てンのか、アリア!」


怒鳴っていても、その紅い瞳は優しい。
だから、満月に願いを掛ける必要などないの。
これは揺るがない愛だと、貴方が教えてくれるから。



願いを掛ける月はいらない



貴方の好きにして良いよ、今夜は……。



‐end‐





今回もシリアスで。
どうも脳内で蟹が不足してるらしく、ネタよりも夢っぽい物が降りてきます。
蟹さまが好きだー!(←知ってるから;)

2008.03.31



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