自覚ない優しさ



「デスって、優しいわよね。」
「…………はぁ?」


何となく呟いた一言だった。
耳聡く、その言葉を捉えた彼は、ピタリと動きを止めた後、たっぷり過ぎる程に間を取ってから、呆れの視線を私に向けた。
ベッドの上に伏せっていた私は、ノソリと上半身を起こす。
心地良い気怠さを纏った身体を、ゆっくりと。
デスは呆れの視線を私から外さないまま、冷たいミネラルウォーターの蓋を開けた。
ペットボトルの溜息が、プシュリと部屋の中に響いた。


「何で、そんな目で見るの?」
「アリアが的外れな事を言うからだろ。」
「的外れ? そんな事はないでしょ。」
「俺のどこをどう見たら、優しいなンて言葉が出てくンのか。疑問しかねぇだろ。オマエの感覚が明らかにおかしい。」


汗の掻いたペットボトルを傾け、デスは中身を半分程、一気に飲み下した。
黙って見ている私の前で、彼は手の甲で無造作に口元を拭い、そのままコチラへと近付いてくる。
だが、それを私に差し出す前に、デスは腰に巻いたバスタオルの側面にペットボトルを擦り付け、滴る程に掻いていた水滴を吸い取った。
ほら、こういうところ、この気遣い。


「だから、優しいって言ってるじゃない。」
「この程度、当然だろ。じゃねぇと、アリアの身体もベッドの上も濡れちまう。」
「その当然の気遣いをしない男が、世の中の殆どを占めるのよ。知らないの?」
「自分の女に気遣い出来ねぇ男なんざ、彼氏の資格すらねぇよ。」


その考えはレディファーストなイタリア人としての考え方なのか、デス独自の考え方なのか。
いずれにしても、その考えが私に対する優しさに繋がっている。
先程まで繰り広げられていた情交だって、私の身体に過度な負担が掛からないように気遣っていた。


「そりゃ、オマエ。アリアが辛い思いしたら、一緒に気持ち良くなったって言えねぇし。」
「そういう考え方をしない独り善がりな男の方が多いって、知ってる?」
「知らねぇし、知る必要もねぇな。俺は、俺とオマエのセックスが最高なモンになれば、それでイイ。」


その『俺とオマエが』ってところが、優しさの核なのだと、デスは分かっているのか、いないのか。
優しさなんて幻影だとでも言いたげに、少し乱暴にベッドに座った彼は、ボスンとマットに盛大な溜息を吐かせる。
それから、私の頭に手を伸ばしたが、ゆっくり髪を撫でる手は、やはり優しいと思った。


「それとも何? 乱暴にされてみてぇの、アリアは?」
「ち、違うわよ。」
「そうか、そうか。アリアはドMだったって事か。長年、付き合ってきて、今更、やっと分かったわ。」
「だから、違うって言ってるじゃない。わ、私だって優しい方が良いわよ。」
「嘘吐け。俺に虐められてぇンだろ?」


問答無用に私の身体を押し倒し、上に圧し掛かってくる白い肌。
その身体を押し返しながら、ニヤリ笑いを浮かべるデスを見上げる。
乱暴にするとか、虐めてやろうとか、そんな言葉を吐きながらも、実際のデスの手も唇も、先程と何ら変わらず優しい愛撫を私に与えてくる。
甘い一点で繋がる瞬間も、乱暴とは程遠い快感ばかりが私を襲い、堪え切れずに甘い嬌声が上がった。
柔らかに突き上げ、それから徐々に深く奥に。
その動きは、私の身体に負担なんて一切与えない。


「あ、はっ……。ほら……、あ……、やっぱり優しい……、じゃないの、あっ……。」
「煩ぇ。オマエは黙って感じてろ、アリア。」


ただ言葉が乱暴なだけ。
そんな彼の優しさを改めて実感しながら、その優しさすら忘れるくらいの快絶の波に、私は溺れていった。



二人の世界は優しい甘さの中に



‐end‐





おなごに優しいイタリアーノの蟹さまのお話。
エッチは互いに気持ち良くなってこそのものだと思っている、それが蟹さまです。
とか何とか言って、蟹さまに「黙って感じてろ。」って、言わせたかっただけですw

2019.07.23



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