プレゼントにケーキをあげる



水色に染まる空の端が、山の稜線に沿って薄っすらとピンク色に変わる。
まだ日没までには遠いが、時刻は既に夕方の六時を過ぎている。
教皇宮に勤める神官や女官達が帰宅する姿がチラホラと見える中、私は一つの背中に向かって一目散に駆けていた。


「デスマスク様〜!」
「あ? アリア? おっと、危ねぇな。」


慌てていた私は、気持ちに足が追い着かずに、足が縺れて転がり落ちそうになった。
呆れた顔をしたデスマスク様が私の身体をキャッチしてくれなければ、何処までも延々と落下し続けていたかもしれない。


「アホか、オマエ。十二宮で階段落ちなンてしたら、次の宮までノンストップだぞ。」
「危なかったです。下手をしていたら首の骨を折って死ぬところでした。ありがとうございました。」


スカートの裾の埃を払い、何処にも怪我がないかを確かめる。
そして、腕に抱えていた包みが無事な事も確かめる。
良かった、大丈夫だ。
躓いた拍子に吹っ飛ばしたりしていなくて良かった。


「良かったぁ。プレゼントが無傷で。」
「プレゼントぉ? 誰の?」
「デスマスク様へのプレゼントです。今日、お誕生日ですよね。はい、どうぞ。」
「中身は?」
「ケーキです。」


答えてから、たっぷり五秒、無言のまま時が過ぎる。
デスマスク様は何故か、私が差し出すケーキの箱を受け取ろうともしない。
え、何ですか、どうしたのですか?


「いらねぇ。」
「えっ?! どうして?! 誕生日プレゼントですよ?!」
「アリア、オマエ……。今、コレ、オマエと一緒に宙に舞ったろ。地面に落下してなくても、中はグチャグチャになってンじゃねぇか?」
「いえいえ、大丈夫です! パウンドケーキですから!」


再びの沈黙。
疑わし気に目を細め、差し出された箱をジロジロ眺めるデスマスク様。
だけど、一向に手が伸びてくる気配はない。


「やっぱ、いらねぇ。」
「だから、どうして?! パウンドケーキだって言ったじゃないですか?!」
「アリアの手作りだろ、ソレ? パウンドだろうと、普通のケーキだろうと、オマエの作ったケーキを平然と食える程、広い心は持ってねぇ。」
「そこは持ってくださいよ、広い心! そもそもお店で買ったものですから! 有名な菓子店のケーキですから!」


だったら、貰っておくわ。
そう言って、デスマスク様は渋々と手を伸ばす。
いやいや、どうして渋々なんですか?!
私の手作りじゃない、ちゃんと美味しいケーキなのに!


「だって、オマエ。なンか裏があるんじゃねぇの?」
「ないですよ、裏なんて。デスマスク様じゃあるまいし。」
「俺は男だから、行動には裏があって当然。男は下心の塊だからな。」


よくもまあ、堂々と言いますね、そんな事。
でも、そんなトコがデスマスク様らしくて好きだ。
ん、あれ?
私、この人の事が好きだと思っているの?


「いやいや、それはないです。」
「あ? なンの話だよ?」
「好きか嫌いかで言えば、どちらかというと好きってだけで。」
「だから、なンの話だ?」


薄っすらと怒りマークを額に浮かべ、デスマスク様が私の手の中からプレゼントの箱を奪い取る。
良かったぁ、取り敢えず、受け取り拒否はないみたい。
何だかんだ言っても、結局はちゃんと受け取ってくれる、実は優しい人なのだ。
こんな風に、人には見せない、隠された優しさが好きだと思う。
って、あれ?
私、やっぱりデスマスク様の事が好き?


「もし不味かったら、アリアに責任取ってもらうからな。」
「せ、責任? 何でしょう?」
「さぁ。何だろうなぁ。」


ニヤリと小さく笑った後、箱を持った手とは逆の手を挙げて、十二宮の階段を下りていく。
あんな風に言っているけど、彼は絶対に不味いなんて言わないと、私は知っている。
だからこそ、デスマスク様に食べて欲しかった。
私の一番のお気に入りケーキを。



不味いだなんて言わせない



(お〜い、アリア。この前のケーキ……。)
(わー、駄目です! 味の感想なら聞きませんから!)
(はぁ?)
(身体で責任取れとか言われても困りますから!)
(はあぁぁ?)



‐end‐





蟹さまの誕生日に訳の分からない話で申し訳ない(反省)
もっと色っぽいのとか、もっと際どいのとか書ければ良かったんですけどね。
最近、蟹さまはホノボノ傾向が強いです(苦笑)
何はともあれ、お誕生日おめでとうございました!

2019.06.24



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