ある風の日



教皇宮の入口を出た途端、強い風が私を襲った。
ビュービューっと勢い良く吹き付ける風に、思わず目を閉じる。
タイミングの悪い事に、今日に限って纏めていなかった髪は、肩に長く垂らしていて。
それが強い風を受けて踊るように乱れ、私の顔に絡まり、そして、視界を遮った。


「あぁん、もう!」


自分の意思を離れ、風に乱される髪に苛立つ私。
手で必死に押さえても押さえても、私を馬鹿にするように吹き続ける風が、指の隙間から髪を攫っていく。
掻き上げて、手で押さえて。
でも、また直ぐに乱れ広がり視界を遮る髪の毛。
何よりも顔に貼り付くのが嫌で、苛々とさせられる。
しかも、そのせいで階段を下りられない訳だし……。


「おいおい、アリア。押さえるトコ、間違ってンじゃねぇかぁ?」
「え? あ、デスマスク様。」


彼だという事は、その声と独特な話し方で直ぐに分かった。
手で髪を押さえ、風に吹かれてフラつく身体を何とか支えながら、直ぐ横に立つデスマスク様を見上げる。
流石に黄金聖闘士様だ、これ位の風になんてビクともせずに、両手をズボンのポケットに突っ込んで余裕の表情で立っていた。
彼の短い銀髪は、多少、風に揺られているものの、私の髪のように風に自由にされたりなんかしない。


「髪より先に、押さえとかんきゃいけねぇトコがあンだろが。」
「は? 何の事を仰っているのか、分からないのですが……。」


疑問符を浮かべてデスマスク様を見上げれば、彼はそれまで見下ろしていた十二宮の階段から、チラリと私の方を横目で見やる。
そして、唇の端を吊り上げて『ニヤリ』と、憎らしいのにどこかセクシーな、あの独特な笑みを浮かべた。


「スカートが捲くれてンぞ。てか、それに気付かねぇなんて、オマエ、鈍過ぎ。」
「っ?!」


慌ててスカートを押さえたが、既に遅過ぎる。
いや、遅過ぎるなんてものじゃない。
私は再び風に乱された髪の向こう側で、顔を真っ赤に染めながら彼を睨んだ。
だが、そんな迫力も何も全くない視線に、デスマスク様はただ、ニヤリ笑いを深めただけ。


「み、見たんですかっ?!」
「当ったり前だろ、バッチリと見えたぜ。つか、その白い女官服に、黒い下着はねぇだろ。まぁ、俺の好みではあるけどな。」
「きゃー! バカバカ! デスマスク様のバカーー!!」


私は目の前に堂々と立つ、デスマスク様の広い胸をポコポコと叩いた。
兎に角、ひたすら恥ずかしくて、込み上げる羞恥を誤魔化すために逞しい胸を目掛けて手を振り上げる。
だが、そんな私の行為を止めもせず、ニヤニヤしながら見下ろしてくる彼が、より一層、憎らしく思えた。


「仕方ねぇだろ? 見たっつーより、見えちまったンだからよ。何が悪いって、風が悪い。あと、スカートを押さえなかったオマエが悪い。」
「わ、私のせいっ?!」
「良いから、スカート押さえろ。他のヤツが来たら、また見られるぜ?」


その一言にハッとして、慌てて手を止めスカートを押さえる私。
背後を誰かが通らなかったかと、恐る恐る振り返る。
すると、そんな私の様子を見て、デスマスク様がゲラゲラと笑った。
遠慮の欠片もなく笑う姿、ホントに感じ悪いんだから!





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